弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

弁護士の選び方(22)・・・弁護士の「交渉」にどこまで期待できるのか?(対一般人)

前回のブログ

 前回のブログ「弁護士の選び方(21)・・・弁護士の「交渉」にどこまで期待できるのか?(対弁護士)」では、弁護士の交渉による解決に過剰な期待は禁物だと述べた。それでも、裁判のプロによる弁護士同士の交渉には合理的な解決が期待できる場合も多いとも述べた。

 今回は、弁護士同士の交渉ではなく、一方に弁護士が就いていないケースでの交渉(相手方本人にこちらの弁護士が交渉する場合又は相手方弁護士と当方本人が交渉する場合)についてお話ししよう。

相手方に弁護士が就いていない場合(相手方本人vs当方弁護士)

 相手方にまだ弁護士が就いていない一般人の場合、こちらが弁護士を就けると有利な展開になるかどうかは、ケースバイケースだ。

 というのも、こちらが弁護士を就けて交渉に臨めば、それで驚いて降参する相手方本人もいるだろうし(多いか少ないかというと経験上多くはない)、かえって闘志を燃やして抵抗してくる相手方本人もいるだろうから、こちらだけ弁護士を就ければ相手方本人に対して有利な展開になるとは限らない。

 また、弁護士同士の交渉であれば、訴訟に発展した場合の事件の見通し(将来予測)を想定した駆け引きをすることになるので、合理的な交渉になりやすいが(※これは前回のブログで説明した)、相手が一般人だと、訴訟に発展した場合の事件の見通しなどはわからないだろうから、交渉における拠り所が食い違うことになる。したがって、弁護士を就けたこちらが将来の裁判での勝ち負けを考えた合理的な交渉を試みても、相手方本人はそのような合理性は全く受け止められず、意地になって闇雲に闘ってくることがある。そうすると、いくら弁護士が順当な結果に向けた交渉をしてみたところで、相手方本人が聞く耳を持たないので、結局交渉は決裂して法的手続きに進めざるをえなくなる。

 このように相手方に弁護士が就いていない場合、交渉が上手く進むかどうかは相手方本人の反応次第なので、極端な展開になりがちだ。

 もっとも、一般的な傾向として言えるのは、こちらが弁護士を依頼して交渉を始めると、たいがい相手方も弁護士を依頼して、結果、弁護士同士の交渉に展開することが多い。順当な流れだと思う。

相手方弁護士と自分自身で交渉する場合(相手方弁護士vs当方本人)

 一方、相手方には弁護士が就いていて、こちらは弁護士を就けずに交渉を頑張ってみようという場合。これは一般的にはお勧めしない。というのも、前回のブログでお話ししたとおり、相手方弁護士を論破することは不可能だからだ。こちらが依頼した弁護士ですら、相手方弁護士の論破は無理なのに、一般人が相手方弁護士を論破して有利に交渉解決することは困難だ(もっとも、これも前回ブログでお話ししたとおり、こちらが被害者的立場であって、相手方弁護士が謝罪スタンスで交渉に臨んでいるような優劣関係があれば別だ)。

 そうすると、対等な対立構造にある争いの場合、相手方弁護士と交渉して無難な結論に着地させるためには、裁判に進めた場合の将来予測を天秤に掛けながら結果を見据える必要があり、一般の人にはなかなか難しいだろう。

 また、弁護士は、交渉の中で色々落とし穴を仕掛けている可能性があるので、本人として上手く立ち回っているつもりで、すっかり相手方弁護士の術にはめられてしまう可能性もある。例えば、交渉の内容を録音されていて、将来交渉決裂した後の訴訟でその時の発言を相手方に有利な証拠として使われてしまうとか、最終の示談書にこっそり当方に不利な条項を仕込まれてしまうとか、裁判になればもっといい結論がでるのにそれを逃してしまうとかである。弁護士は職業倫理的に不正違法な交渉はしないまでも、専ら自分の依頼者の利益になる交渉しかしないので、仮にこちらが誤解をしている何かがあっても、必ずしもその誤解を解くようなことはしてくれないかもしれないし、中立公正な結論にしてくれるとも限らない。相手方弁護士はあくまでも相手方の味方であって自分の味方ではなく、油断ならない相手であると考えれば、素人であるこちらが弁護士を就けずに本人だけで交渉する場合のリスクは自ずと知れるであろう。

 したがって、相手方弁護士本人と当方本人で交渉を試してみるとしても、こちらは少なくとも適宜弁護士に法律相談をして、アドバイスをもらいつつ行うのがベターだ。専らネット情報だけを拠り所にして自分の思い込みだけで交渉するのが一番不味い。

弁護士をいつ依頼するかは少し考えた方がいい場合がある

 結局、相手方本人との交渉でも、前回のブログでも書いた対相手方弁護士との交渉でも、こちら側に弁護士を就けて悪いことはないわけだが、頼み時は少し考えた方が良い場合がある。

(1)相手に弁護士が既に就いている場合

 相手方に弁護士が就いている場合に、こちらも弁護士を就けることはさほど躊躇しなくてよい場合が多そうだ。というのも、相手方弁護士とこちら側本人が交渉することはお勧めできないのは今回述べたとおりだし、弁護士同士の交渉であれば合理的な解決ができる場合もありうるからだ。

(2)相手に未だ弁護士が就いていない場合

 相手方にまだ弁護士が就いていない場合には、こちらが弁護士を今すぐ依頼するかどうかはよく考えた方がいい。

 というのも、まだトラブル初期の段階であれば、本人同志で話せばわかりあって解決できるケースもあるだろうから、わざわざ弁護士を前面に出してトラブルを大きくする必要はない。こちらに弁護士が入れば、相手も弁護士を入れることが多いから、トラブルは本格的な様相を呈してくる。したがって、弁護士は前面に出ずに背後でアドバイザーとして相談をしてもらいつつ、しばらく様子を見ながら自分で交渉をするという交渉戦略も有益な場合がある。

 また、こちらが加害者的な立場であるとか、裁判に発展した場合に、こちらが不利な結果になると見込まれる場合に、まだ弁護士を就けていない相手に対して、わざわざこちらから弁護士を投入して相手を刺激するのが得策ではないという場合もあるだろう(それが得策である場合もケースバイケースでありうるので一般化はできない)。

 もっとも、民事介入暴力事件だとかヤミ金融事件のように、相手方が違法不当な立場であるような場合には、直ちに弁護士を依頼してすぐ弁護士を前面に出した方がいいだろう。

 このように、相手方にまだ弁護士が就いていない場合に、こちらがいつ弁護士を投入するかはケースバイケースなので、ともかく先ずは法律相談に行って、弁護士のアドバイスをもらいつつ一緒に検討する必要があろう。私のブログ「弁護士の選び方(14)・・・弁護士の頼み時」もご覧ください。

 なお、ろくに相談も聞かずに、とにかく是非ご依頼ください・交渉で上手く解決します的な、営業色たっぷりな弁護士は要注意かもしれないので、複数の弁護士に相談して比較判断した方がいい。

 

 

 

小川綜合法律事務所
〒160-0004 新宿区四谷1-18-5 綿半野原ビル別館5階
Tel:03-5368-6391 / office@ogawalaw.com
Copyright(c) 2014 Ogawa & Associates Law Offices All Rights Reserved.