弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

高橋ジョージ vs 三船美佳 離婚裁判 妄想雑感

 報道によると,3月29日に,高橋ジョージさんと三船美佳さんとの離婚が成立したそうだ。

 私は,報道されている事実しか知らないので,実際に正しいかどうかはわからないが,この離婚成立をめぐって,何があったのかを勝手に推測してみたい。というのも,この終わり方,普通の人にはちょっと解りにくいと思われるからだ。例えば,離婚訴訟なのになぜ協議離婚できたのか? 和解内容の記者会見を巡って当事者間で和解後の場外乱闘があったのはなぜか? 三船さんが慰謝料など全て放棄したのはどうしてか? などの疑問が湧くだろう。

離婚訴訟なのに協議離婚?

 まず,普通の人が不思議に思うであろうことは,ここまで延々大々的に争ってきて,判決にならずに,なぜ協議離婚したのかという点ではあるまいか。

 実は,これは全く不思議ではない。

 離婚の方法としては,(1)協議離婚,(2)調停離婚,(3)審判離婚,(4)和解離婚,(5)認諾離婚,(6)判決離婚がある。

 このうち,(1)が普通の離婚だ。お互いが納得ずくで離婚届書いて役所に提出する方式。

 一方,(2)から(6)が,広い意味でいわゆる裁判離婚,つまり裁判所が関与して成立させた離婚だ。審判離婚と認諾離婚は珍しいので,実際は(2)調停離婚,(4)和解離婚,(6)判決離婚,たいだいこの3パターンのいずれかだ。いずれにせよ,協議離婚以外の形で離婚成立すると,戸籍に「調停成立」とか「裁判確定」とか付記されるため,裁判所が関与したことが戸籍上判明してしまう。つまり,きっと離婚に際して揉めたんだなと推測できる履歴が残ってしまうわけだ。

 このため,離婚調停や離婚訴訟の収め方として,敢えて協議離婚を当事者が希望する場合がある。実際は調停離婚や和解離婚だが,調停や和解の席上,実際に離婚届をお互いが記入して交付し,離婚の部分だけ,調停離婚や和解離婚ではなく協議離婚の形式にする。こうすると,戸籍の記載も協議離婚になる。調停や訴訟を一旦取り下げて,改めて別途協議離婚交渉を進めるわけではない。

 今回の高橋三船夫妻の離婚劇も,本来であれば和解離婚になるところを,おそらく高橋さんの希望でニュートラルな協議離婚形式にしたのではないかと想像できる。

当事者間のモラハラ場外乱闘

 この離婚成立の直後,三船さんの代理人弁護士が記者会見した。かつてこの離婚裁判当初の報道で「弁護士会のモネ」と称された弁護士だ。このブログでも紹介した

 高橋さんは,この記者会見に怒り心頭のようだが,報道されている内容を読む限り,三船さんの代理人は特におかしなことは言っていない。争点はモラハラだと言い,「モラハラに関しては立証されたわけでもないし、モラハラがなかったと確定したわけでもない」とコメントしているだけだから,正しい事実しか言っていない。

 これに対して,高橋さんが,同弁護士の発言に対し、ツイッターで「モラハラを立証して夫婦関係の破綻を裏付けなければ離婚請求原因自体がなくなる、つまり裁判での離婚は認められない。法律関係者ならば、簡単に分かる事。一年間立証出来なかった。裁判所の温情ある配慮に対して失礼だと思う」と批判したらしい。高橋さんがなぜ怒ったのか,ちょっとわかりにくい。

 そこで,高橋さんの怒りポイントを想像してみよう。

高橋ジョージさんの三船代理人弁護士に対する怒りポイント

 この謎を解くキーワードは,高橋さんが抱いている「裁判所の温情ある配慮」だ。

 本来,訴訟上和解に,裁判所の温情ある配慮はない。なぜなら,和解は,専ら訴訟当事者の互譲による話し合い解決だからだ。裁判官は,話し合いの間に入って調整するけれども,温情ある配慮はしない。判決と違って,和解の内容は裁判所によって強制されるものではないから,温情をかけても仕方がないからだ。当事者が不満な和解内容なら,和解が成立しないだけのことで,裁判所が強制的に和解成立させることはできない。

 ただし,証人尋問が終わり,あとは手続き的には判決を残すのみという最終段階での和解となると,少し事情が異なる。

 というのも,この段階では,裁判官の頭の中に「勝ち負けがだいたい決まっている」からだ。実際,この段階で裁判所が和解を勧めることは多いが,その際,裁判官が,「この裁判は,あなた勝ちますよ(負けますよ)」とにおわせることがある。いわゆる心証開示というやつだ。ここで,裁判官から負けますよ或いは不利ですよとにおわされた当事者とすれば,敗訴判決を食らうくらいなら,大幅に譲歩しても何らかの利益を得られる和解をした方がいいと考えるわけだ。

 たぶん,高橋さんの怒りポイントは,裁判官が和解に先立って彼にいろいろ話した内容に原因しているのではないかと思われる。

そのとき,裁判官は,何を言ったか?

 そこで,この高橋三船裁判の和解交渉で,裁判官が何を言ったかを妄想してみる。

裁判官→三船

「モラハラの立証はできていないですね。裁判所としてはモラハラがあったとの心証には至っていません。つまり離婚原因の証明ができていないので,離婚請求は棄却せざるをえません。ただ,請求棄却したところで,別居は続けるんですよね? つまり嫌なものは嫌だと。そうであれば,離婚と親権だけ実現できれば,あとは高橋さんの言うとおりにしてあげて,和解離婚したらいかがですか」

※離婚請求棄却の心証は,裁判官の本音

裁判官→高橋

「今の段階でははっきり言えませんが,モラハラの有無だけで判断すれば,立証は不十分な印象なので,離婚請求棄却の可能性は十分あります。ただ,あなたにも色々問題があったように思います。離婚原因はなにもモラハラの証明だけにかかっているわけではなく,婚姻を継続しがたい重大な事由があるかどうかです。そういう総合的判断をした場合に,モラハラの立証ができないからといって,今回の離婚請求が必ず棄却されるとは限りません。あなただって負ける可能性があるということです。
 仮に今回の裁判であなたが勝ったとしても,三船さんは籍を抜くことができないと言うだけで,別居状態や彼女らの気持ちなど,現実は何も変わりません。それに,数年後,再び三船さんから裁判を起こされれば,モラハラの立証など全くできなくとも,離婚が認められる可能性は高まります。つまり最後にはきっと離婚が認められてしまうわけです。
 そうであれば,ここで籍の維持なんて形に拘るのではなく,現実的な解決をしてみたらどうですか。つまり和解離婚です。もっと最初の振り出しに戻して協議離婚でもいい。三船さんはモラハラの立証が出来ない以上,負けるも同然なので,離婚と親権以外は要求しないように話してみます。慰謝料はもちろん,普通なされる財産分与や養育費の請求もしない方向で決着できれば,三船さんがこの裁判では負け筋であったことが客観的にわかります。要するに,三船さんは念願の離婚と親権だけを取り,あなたは経済的利益を取る。そして,双方痛み分けの和解だけれども,三船さんが本来請求できるはずの財産分与など何も言わないということで,モラハラが証明できなかったことを間接的にはっきりさせる。離婚そのものに限って言えば,専らあなたが譲った形・勝った形になるわけですから,これで高橋さんの名誉も立つんじゃないですか?」

※無闇に判決に拘られたくないので,本件が離婚請求棄却だとははっきり言わない,裁判官の巧妙なブラフ

 ・・・と,まあ,こんな感じで裁判官が各当事者を説得したのではないかと妄想してみた。

 ちなみに,裁判官の言い方は,対三船さんと対高橋さんとで微妙に違う妄想をしてみたが,訴訟上の和解は,当事者同席して行われるわけではなく,裁判官をはさんで交互に密室で話し合われるので,裁判官が相手にどんなことを言っているかはわからない。だから,裁判官としても,和解成立に向けて,多少のハッタリをかますこともありうる。

結局,こんなことだから

 結局,こんなことで高橋さんは,和解したけれども自分は勝ったという意識が強いんじゃないかと思う。判決だったら,きっと三船さんが負けていたと。裁判官の心証もそんな感触だったと。それが証拠に,離婚と親権以外は何も主張しなかったではないかと。三船さんが負けたはずの裁判を,裁判官が取りなしてくれて,俺が渋々協議離婚に応じたおかげで,離婚成立したんだという意識が高橋さんにあって,それで「裁判所の温情ある配慮に対して失礼だと思う」と批判したのではないかと想像する。だから,三船代理人弁護士の,裁判の勝敗は全くわからなかったと言わんばかりの,淡々とした記者会見にカチンと来たんだろう。

 高橋さんとしては,三船代理人弁護士の記者会見で,モラハラはありませんでした,高橋さんの勝ちでした,お願いして協議離婚して頂きましたと,それくらい敗者のコメントはできなかったのかと,そんな不満を持って怒ったのではあるまいか。

この和解の問題点

 ところで,双方ちゃんとした代理人が就いていながら,このように和解後に場外乱闘するのは,後味がよくない。もっとスマートに万事終えられなかったのだろうか。

 僕だったら,どちらの代理人だったとしても,和解条項の中に,守秘条項を入れるよう要求しただろう。つまり和解内容を第三者に口外しないという条項だ。そうすれば,記者会見はもちろん,対外的なコメントをすることは禁じられる。おそらく守秘条項を入れていないから,双方の思惑と解釈でコメントを出してしまうのだ。或いはお互いがこういう風に自分寄りの和解解釈を後日主張したいがために敢えて入れなかったのか。いずれにせよ,守秘条項を入れていないんだから,場外乱闘は既定路線だ。

 それから,慰謝料と財産分与を放棄するのは夫婦当事者の勝手だからそれもありだが,養育費の取り決めをしていないことはちょっと釈然としない。三船さんが,離婚と引き換えに請求放棄したのかもしれないが(積極的に放棄したわけではなく,単に請求を取り下げただけかもしれないが),厳密に言えば,養育費は子どもの権利でもあり,三船さんが勝手に放棄することはできない。将来,例えば三船さんが生活に困窮するなど,特別の事情が発生すれば,今回の和解内容にかかわらず高橋さんが応分に養育費の支払をしなくてはならない事態はありうる。

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