弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 20年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

裁判に勝つためには(3)・・・書証と人証

前回までのあらすじ

 第1回目は、裁判に勝つためには証拠が一番大事という話をした。

 第2回目は、裁判は常識的な説明ができるかどうかで勝ち負けが決まるので(事実認定)、常識的に説明がしやすい証拠、特に書証を工夫して出すことが裁判に勝つポイントだと話した。

 さて今回は、二大証拠である「書証と人証」について語ってみよう。

動かぬ証拠・・・書証

 前回、証拠の例として「契約書」「注文書」「メール」を挙げた。いずれも文書であるが、文書とは、まさに文字が書かれた物体であり、過去の事実をそっくりそのまま缶詰にして今に伝えるものだ。この文書を、裁判で証拠として提出することを「書証」という。
 この書証は、いわば証拠の王だ。
 なぜなら、書証そのものに記載されている事実は、作成当時から未来永劫変わることがない。過去の事実の缶詰が書証であり、事実認定にとっては大いに信頼できる証拠だ。まさに動かぬ証拠なのだ。

書証の意外な弱点

 ところが書証には、意外にも弱点がある。
 即ち、書証は自らなにも語らないという点だ。どういうことか説明しよう。

 契約書や手紙など、ストーリー性を持った内容が記述されている書証であれば、それなりに雄弁である。その書証だけで、ある程度の事実が判明する。

 しかしこれが「領収書」だったらどうだろう。

 <領収証 一金五百萬円也 但し商品代金として 平成23年2月24日 A物産株式会社>と記載がある。

 これを単体の証拠として裁判所に出しても、これで全てが決まるとは限らない。 例えばAがBに対して売掛金請求をしている裁判。Bは既にAに商品代金を支払い済みだと主張したい時にこの領収書を出しても、Aから「いや、この領収書は別取引のもので、今回取引のものではない」と言われてしまったら、この領収書だけではBの主張を十分証明できない。

 このように書証は、はっきりと過去の事実を缶詰にしているものの、それ以上でもそれ以下でもなく、言葉足らずな書証だけでは事実が全て明らかにならないこともあるのだ。

 このように書証は動かぬ証拠になる反面、単体では証拠として十分機能しなかったり、文書の解釈によっては必ずしもこちらにとって有利になるとは限らないという弱点があるのだ。

本当はあてにならない人証

 じゃあこの弱点を補うためにはどうしたらいいか。 そのためにいよいよ登場してくるのが「人証」である。人証とは、人の口から語られる言葉のことだ。裁判では、例えば証人尋問という形で行われる。
 この人証は、もちろん単体でも証拠となる。「私は彼とこのような内容で約束をした」とか、「私は当事者がこのような内容で約束をするのをその場で聞いた」とか、こういうことを裁判官の前で語るわけだ。その語った内容(ことば)が、証拠になる。
 ところが人証には、書証と違った致命的な弱点がある。それは「いくらでも嘘をつける」ということだ。
 書証は、巧妙にねつ造されない限り、書証そのものが嘘をつくことはありえない。しかし人証は、人の口が語るわけだから、実際に経験した事実と違うことを語るのは簡単だし、それが迫真の演技の下に矛盾なくなされれば嘘だと見抜くことは困難だったりする。

 まして嘘ではなく「記憶違い」だったら、語っている本人も嘘を述べているという自覚がない。そう思い込んで、悪びれず堂々と話をするから、なかなか見抜けない。
 このように人証は、書証のように過去の記憶の缶詰ではないので、証拠としての価値は低くなりがちだ。まして当事者や当事者関係者の話は、多かれ少なかれ自分たちに都合いいようになりがちから、裁判官も話半分に聞くことになる。

 本当はあてにならないのが人証だ。それだけでは・・・

書証の弱点を補う人証

 じゃあこんな危うい証拠である人証を証拠として使う意味があるのか。
 それが大ありなのだ。書証の弱点を補うものとして使うとき、人証は優れた効果を発揮する。

 それはこういうことだ。書証は単体では十分語れないことがあると述べた。その十分語れない書証を、しっかり介護して語れるようにする、これが人証の役割だ。
 さっき挙げた領収書の例、<領収証 一金五百萬円也 但し代金として 平成23年3月24日 A物産株式会社>との領収書を、Bが代金支払い済みであることの証拠として提出したら、Aから「それは別取引の領収書」だと言われてしまったケースを再び取り上げてみよう。

証人尋問の具体例

 この場合、この領収書を証人尋問でAに示して、こんな風に尋問することになる。

B弁護士「領収書には<平成23年2月24日>という日付が書いてありますが、このころAとの間で別取引がありましたか」

A「このころではありませんが、1年前には別取引がありました」

B弁護士「1年前のその別取引の金額はいくらですか」

A「400万円です」

B弁護士「1年前のその取引と今回の取引以外に、Bとの間で取引がありましたか」

A「ありません」

 ・・・と、こういう風に尋問ができたとすると、これはもはやBにとって大成功だ。領収書は、別取引のものではなく本件取引の領収書だと、裁判官は常識的に考えてくれるだろう。なぜなら、Aの言う別取引とは、1年も前の取引が唯一であり、その金額も領収額より少ない400万円だというのだから、この領収書が別取引の領収書とは考えにくいからだ。
 このように、書証を十分に語らせるために人証を利用するわけだ。

経験乏しい者がする証人尋問の特徴

 ときどき、司法修習性の模擬裁判や新人弁護士の初証人尋問を見ていると、書証を全く示さずに、想定問答が書かれた尋問メモをひたすら追って質問を繰り返している人がいるが、これでは意味がない。人証を単体利用した場合の証拠価値は低いことを知るべきだ。
 裁判に勝つためには、書証と人証を上手いこと使い分けたり相互に補完させたりする工夫が必要だ。

 百戦錬磨の弁護士が優れているのは、こういう証拠の使い方が手慣れているのだ。そして裁判に勝つのだ。


(つづく)

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