前回は、ホームページから弁護士を選ぶ場合、そこから弁護士自身の姿が見えてくるかどうかが、弁護士選びの一つのポイントであることを述べた。今回からは、もう少し具体的に見分け方をお話ししてみよう。まずは「弁護士の学歴」について。
弁護士の経歴に注目
弁護士のホームページには、どこかに必ず自己紹介が書いてあるはずだ。
その自己紹介に記されている経歴を読み込むと、自分が今抱えている問題に対処できる弁護士かどうかがわかる。
出身大学は重要か?
おそらく先ず見てしまうのが出身大学ではないか。どうせなら有名大学卒の弁護士から選びたい、それも東大卒とか思いがちな方、結構いるのではないだろうか。
しかし、我々弁護士の能力に、出身大学は関係がない。
なぜなら弁護士は、大学入試ではなく司法試験によって選抜されているからだ。東大卒でも司法試験に落第する(又はそもそも敬遠する)というのが現実だ。
また、大学入試は「語学や数学の勉強力」が試される試験だが、司法試験は「法律の職人力」が試される試験だ。試験の目的が違うので、東大卒のものが、必ずしも弁護士として適性があるとは限らない。東大卒がオリンッピック出場に適性があるとは限らないのと同じことだ。
したがって、弁護士の出身大学は、飾りとして見ておけばよい。
現役合格の罠
大卒と言えば、自分が大学卒業前に司法試験に「現役合格」「在学中合格」したことを強調する経歴も散見される。
しかし、この現役合格には、留年して合格したケースも多く含まれるので、必ずしも大学4年生までに合格したことを意味しない。大学を留年して合格しただけなのに、現役合格・在学中合格であることを強調して、さも早期合格したかのように大風呂敷を広げる経歴は、弁護士としての事件報告も大風呂敷かもしれないので、ちょっと要注意かもしれない。
大学4年生までに現役合格したのかどうかは、生年月日と司法試験の合格年度を比べてみればだいたい分かるだろう(大学浪人もありうるので確たる判断はできないが)。
学閥はないのか?
例えば医師の世界と違って、弁護士業界に学閥はない。なぜなら、大学(学会)と法曹界とは切り離されているからだ。
医師の世界は、善し悪しは別として大学や学会との繋がりが大きいだろう。医学の場合、大学や研究機関での成果が、現場の臨床に直接あらわれてくるわけで、学問と現場は切っても切り離せない関係にあるから、これは必然の結果だろう。
一方、法律の場合、大学での研究が裁判の現場に直接あらわれることは多くない。大学で研究すればするほど、よい裁判やよい弁護ができるという繋がりがないのだ。ここが科学と法学との決定的な違いでもある。文学を研究すればするほどよい小説が書けるものではないのと同じことだ。
だから、弁護士の殆どは法学会に所属していないし、大学の研究者経験も持っていない。医師の多くが医学博士であるのに対して、弁護士の圧倒的多数は法学博士ではない(※近年新設されたロースクール卒業者に与えられる法務博士という学位は、いわゆる博士とは違う)。弁護士の殆どは法学論文など書いたこともない。大学を卒業してしまえば、親睦としてのOB会のようなものに顔を出す以外には(こういうOB会に顔を出す弁護士すら少数派だろう)、大学との縁が切れてしまうのが弁護士だ。
したがって、弁護士業界に学閥はなく、出身大学で弁護士を選んだところで、よいことがあるわけではない。
まして、例えば担当裁判官が東大卒だから、東大卒の弁護士を依頼するとか、相手方の弁護士が早大卒だから、こちらは早大の先輩弁護士をぶつける、などという発想は何の意味もない。
海外ロースクールへの留学経験
海外ロースクールへの留学経験が経歴に書かれている弁護士。
東京大学卒という上に、ハーバード大ロースクール卒とまで書かれていると、なんとなく凄いなと思うはずだ。弁護士にとって、東大卒が関係ないにしても、学閥がないにしても、こんな学歴を経ているなら、さぞかし頭がよかろうと思うはずだ。そして、頭がよければ優れているはずだと。
しかし、これは違う。
というのも、海外ロースクールへの留学経験がある弁護士は、会社法務を中心に仕事をしていて、個人の法律問題を取り扱わないことがあるからだ。
取り扱わないということは、経験がないということだ。我々弁護士は職人だから、現場経験の積み重ねによって腕を磨いてゆく。決して机の前に座って勉強して腕を磨くわけではない。だから、悲喜こもごもな個人の法律問題を取り扱った経験が乏しければ、学歴だけ揃っていてもダメなのだ。
したがって知るべきことは、学歴ではなく、個人の法律問題を豊富に取り扱っているかどうかだ。
その見分け方としては、ホームページ上で、その弁護士が所属している法律事務所の他の弁護士の経歴もあわせて読んでみたらよい。ほぼ全員が海外留学経験を持っているような法律事務所であった場合には、その事務所はいわゆる渉外事務所(国際法律事務所)といわれる、企業法務を主力としている事務所である可能性が高い。そうすると、個人の法律問題を頼むのには適当でないかもしれないとの推測をはたらかせられる。
実際、そういう事務所には、いくら頼んでも引き受けてくれないことが多いはずだ。そこを曲げて頼んだりしないよう注意したい。
逆に、弁護士報酬や顧問料にはいとめをつけず、専ら海外取引に関する企業法務相談をしたいというのであれば、こういう経歴の弁護士から選ぶべきだ。
国内ロースクール出身かどうか
ところで、ここ数年、新規登録した若手弁護士は、多くがロースクール(法科大学院)出身だ。
一方、私を含め、10年選手以上の経験を持つ弁護士は、殆どが大学卒までだ。大学院卒もたまにはいるが、それにしてもいわゆるロースクールではない。つまり学歴として、最近の新人弁護士は全員大学院卒、我々古参は大卒。学歴としては古参の方が低い。
これはどうしてかというと、平成18年から実施された新司法試験が、受験資格としてロースクールの卒業を原則としているからだ。このため、これまで日本の大学には存在していなかったロースクールを、著名大学が新設することとなり、ロースクール卒という学歴が登場するようになったわけだ。
この新司法試験下においても、予備試験に合格していればロースクールを卒業する必要がないため、ロースクール卒の肩書きは絶対必要ではない。
したがって、ロースクール卒は、司法試験受験資格であるため、弁護士の経歴としては注目する必要がない。
次回以降予告
次回以降引き続き、弁護士の経験年数、ホームページに書かれている弁護士の経歴からうかがわれる弁護士の選び方を語ってゆく。弁護士登録番号から知る弁護士の経験年数、ヤメ検・ヤメ判弁護士、弁護士会の役職経験、刑事専門弁護士、ネット上の口コミの見極めなど。
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