弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 20年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

弁護士の選び方(5)・・・専門分野

 コンスタントな連載になってきた。まだまだずっと続く(はずの)「弁護士の選び方」、前回、弁護士としての経験年数は、弁護士選びの参考にはなるが、経験年数よりも事件類型に対する「経験値」こそが重要だという話をした。

 そこで今日は、もう少し掘り下げて、経験値の対象となる事件類型、俗に「弁護士の専門分野」についてお話ししてみよう

専門医と専門弁護士

 弁護士には、医師のような専門認定制度はない。

 したがって、刑事専門とか離婚専門とか借金専門とかうたっていても、それは公的に認定されたものではない。弁護士会の専門研修を受講することで修了証を交付されたり、弁護士会の法律相談センター相談員では一定経験を登録要件とされたり、裁判所の破産管財人名簿に登録されるための弁護士会からの推薦に一定の経験要件を課されたりすることがあるが、いずれもその道の専門家と認定されているわけではない。

 むしろ日本弁護士連合会(日弁連)の指針としては、専門性の表示は、現状で公的認定制度がないことからして、市民に対する誤導の恐れがあるので控えるのが望ましいとされている(後掲『弁護士及び弁護士法人並びに外国特別会員の業務広告に関する運用指針』のとおり)。

 このような状況であるため、「専門弁護士」を名乗っているのは、単なる自称だということを知る必要がある。

そもそも専門化しにくい弁護士業務

 足の骨を骨折したら整形外科、目が痛ければ眼科、病気の場合は、症状によって患者側が訪れる専門医をある程度までは選別できそうな気がする。

 しかし法律問題の場合、依頼者が解決に適した分野を直感的に判断するのは難しいことが多そうだ。

 例えば借金問題。中小企業が倒産しそうな危機に瀕しているとする。その社長としては、倒産必至であれば、せめて家族だけでも守ろうと、本心ではなく妻と離婚して、財産分与や慰謝料名目で個人資産を全部妻に名義移転しまおうと考える。ありがちな(愚かな)考えだ。

 この社長が、これを、仮に離婚問題しか取り扱ったことのない離婚専門弁護士に依頼して、思いどおり離婚を成立させてしまったらどうなるだろうか。これでは根本的な解決にならないばかりか、後日、せっかく妻に分与したと思った個人資産を会社の債権者に取り戻されてしまう可能性が高い。つまり、離婚損、分与損、時間と弁護士費用全部損になるだけでなく、これが破産事件であれば資産隠しということで免責不許可(借金をチャラにしてもらえない)事由になりかねない。損しただけだ。

 一方、倒産問題を扱う弁護士に相談したのであれば、これは離婚問題ではなく倒産問題として処理すべきだとアドバイスされる。社長夫婦を離婚などさせないわけだ。つまり、この社長としては、倒産問題に習熟した弁護士に離婚相談する、というのが正解だったわけだ。決して、離婚専門弁護士に相談すべき問題ではない。

 結局、離婚したいという主訴の依頼者であっても、実は背景事情があるのではないか、根本的解決のための問題は何か、経験に基づいていろいろと解きほぐしていくのが弁護士であって、離婚を主訴とする依頼でも、実は会社倒産事件の依頼だったということは、実際に経験されるわけだ。そうすると、離婚だけの弁護士ではだめだということなる。

 つまり、弁護士は、狭い専門分野の経験値だけ積んでいればいいわけではなく、ある程度広く法律問題について経験と知識を有しておく必要がある。このように、そもそも専門分化しにくいのが弁護士業務なのだ。おそらく眼科の医師でも、目が痛いとの主訴で、これは脳の病気かどうかという見立てが必要そうだし、皮膚科の医師でも、身体が痒いとの主訴で、これは内臓疾患かどうかという判断が必要そうだが、弁護士の場合、それがもっと広い範囲で非定型的に必要とされるわけだ。

ちょっと待て!同じ専門分野でも大違い

 これは医師もそうかもしれないが、眼科、皮膚科・・・といっても、その中でさらに得意分野が異なるだろう。

 例えば上掲の借金問題。離婚するのは不正解だとして、じゃあ借金問題だから借金専門をうたう弁護士なら誰でもいいかというと、ちょっと待て!だ。

 その借金の原因が、個人の生活苦によるものなのか、会社の経営難によるものなのかによって、弁護士の経験値の積み方に大きな差がある。ネットで借金専門をうたっている弁護士の中には、個人の生活苦による借金問題(業界用語で俗に「クレサラ事件」と呼ばれる類型)の経験値ばかり積んでおり、会社の経営難による借金問題については習熟していない弁護士がいる。特に登録数年程度までの若手。

 会社の借金問題は、会社経営に関する様々な知識が前提として要求されるし、解決手段も民事再生法や会社更生法といった会社再建独特の法的手続の習熟まで要することがあるため、個人の債務整理や個人破産事件の経験値ばかり積んだ弁護士では歯が立たない。

 会社経営にまつわる借金問題、とりわけ会社の再建を図りたいと考えているような場合には、クレサラ事件の受任件数や過払い金の回収を広告して自慢している弁護士ではなく(もとより司法書士でもなく)、会社再建に関する倒産事件を多く取り扱っている弁護士のところに行かなくてはならない。こういう弁護士はネットで借金専門を大々的に広告していることは少ない。

 つまり、同じ借金問題でも、その中で、弁護士の経験が大きく違っている場合があるわけで、会社倒産の依頼者が、ひとくくりに借金問題と考えて安易に一番大きく広告された借金問題弁護士を探してきたら、全然違った、決算書も十分読めない素人同然だったということになりかねないわけだ。

弁護士の経験値を知るためには?

 このように、弁護士はなかなか専門分化しにくいにしろ、特定の分野の経験値を多く正しく積んでいる弁護士がいることは間違いない。会社再建型の倒産分野だとか知的財産権分野などが代表例だ。それを専門家と評するかどうかは別として、経験値を多く積んでいる弁護士は信頼に足るだろう。

 それを依頼者から見極める方法として、弁護士登録してからの経験年数がちょっとした参考になることは前回のブログで紹介した。ただ、経験年数は、長ければ経験値を積む土壌があるだけのことであり、特定分野に対しての経験年数を正しく物語るものではないから、絶対視すべきでない。

 そうすると、特定の分野の経験値が多いかどうかは、初めて法律相談をしたときに、いくつかのキーワードを弁護士に質問することで判明することがある。弁護士と依頼者はサービスを提供する側・提供される側という意味で対等だから、弁護士を選ぶ際に、いろいろ質問してみることは決して失礼ではない。普通に質問しただけなのに、質問をはぐらかしたり、機嫌が悪くなったりする弁護士は、それ自体で粗悪弁護士と思って間違いない。

弁護士の経験値を知るキーワード・・・たとえば会社倒産事件

 たとえば会社が倒産の危機に瀕しているということで、借金問題に詳しいと標榜する弁護士のところに法律相談に行ったとしよう。こんなキーワードを質問してみたらよい。

 「先生は、破産管財人はなさっているのですか?」と。

 これに対して、ええ、よくやっていますよ、との答えがあれば、倒産問題周辺にそれなりに経験値を積んでいそうな弁護士だ。破産管財人というのは、破産手続で裁判所から選任される公職だが、東京地裁では、破産管財人候補者名簿というのがあり、弁護士登録一定年数以上の弁護士で(東京では現在登録5年目から)、弁護士会の研修を受け、弁護士会から裁判所に推薦された弁護士が名簿に載っている。

 だから、「やったことがあります」という程度ではなく、「よくやっている」ということであれば、裁判所からもそれなりに信用されて、継続的に破産事件(=倒産事件の基本型)について経験値を積んできているということを意味する。

 さらに「先生は、個人再生委員もなさっているのですか?」と追加質問してみてもよい。

 東京地裁では、破産管財人として経験を積んだ弁護士の中から、さらに一定の経験がある弁護士に絞って、民事再生法で定める個人再生手続の再生委員を委嘱する運用になっている。破産事件は個人破産と会社破産があって、会社破産の方が一般的に複雑であることが多いため、より管財人に高い経験値(管財人経験の豊富さ)を求められるが、東京では、個人再生委員をやっている弁護士なら、会社の破産管財人としてもそれなりに経験を積んできた弁護士ということでよさそうに思う。

 一方、専ら会社を再建したいということであれば、

 「会社の民事再生の監督委員をなさったことがありますか?」

 という質問はどうだろう。ただこの質問は、闇雲にするには該当者ヒット率悪そうなので、「会社の民事再生を申し立てたことがありますか?」でもよさそうだ。再建型の場合は、むしろ申立の経験こそ重要そうだからだ。

 ただ、これらのキーワードも絶対ではない。

 本当に重鎮の先生は、もはや破産管財人などいちいちやっていなかったりしそうだ。また、破産管財人や再生委員・監督委員としての経験値だけ積んでいてもダメだ。例えば中小企業の倒産事件では、いわゆるクレサラ事件の債務整理や、破産や再生の「申立」の場数を踏んで経験値を高めていなくてはならない。ここはベースの部分だ。申立までの現場仕切りの場面にこそ、腕の見せ所があったりするからだ。特に、個人の申立と会社の申立とでは、申立までに仕切る内容に格段の違いがあったりするので、「会社の破産(民事再生)申立をだいぶなさっているんですか?」という質問に、正直に答えてくれる弁護士を見極めたい。

弁護士の経験値を知るキーワード・・・たとえば成年後見

 例えば成年後見制度に関して、裁判所の後見人候補者名簿に載るためには、東京の弁護士の場合、弁護士会からの推薦があってはじめて掲載される。その推薦は、管財人の場合と同じような研修要件だから、推薦されること自体はさほど困難ではないが、後見人候補者名簿に載らなければ、裁判所から後見人等に選任されないから、経験値は積めないわけだ。

弁護士の経験値を知るキーワード・・・たとえば離婚問題

 キーワードを言い始めるとキリがない。あまり列挙し続けると、私自身の非専門性も明らかになってしまいそうで怖い(笑)。今日は、この辺まで述べて最後にしておく。

 例えば、離婚事件だったら、「算定表」とか、「コンピ(婚費)」とか、「面会交流」とか、その辺のキーワードをぶつけてみたらどうだろう。さすがに、これを知らない弁護士が、離婚相談を軽々しく受けているとも思えないが、もしこれらのワードで会話が弾まなければ、その弁護士はダメだ。

 「私の手取りは年間500万円くらいで、妻は無職なんですが、コンピはどのくらいになるでしょう?」

 という質問に対して、弁護士から、「自営ですかお勤めですか」「お勤めなら、手取りじゃなくて支払総額はいくらですか」「奥さん、無職ってお体の具合悪かったりしますか」「奥さん、あなたが負担している住宅ローン付きの自宅に住んでますか」「お子さんいらっしゃいますか」と矢継ぎ早に質問されて、その場で3分以内に婚費の目安金額を出してもらえたら合格だと思う。離婚事件を全く扱ったことがなければ、「コンピ」を婚姻費用と思い至らない弁護士もいそうだし、婚姻費用と養育費の区別もつかなかったりするかもしれないから、この辺は弁護士の顔色と空気を読んで判断したらいい。

 ちなみに、もうこのキーワードをネットに載せてしまったので、同じ質問をしても回答対策されてしまいそうだが(笑)、本当は、上記の破産管財人経験や成年後見人経験のように、独自には回答対策できないようなキーワードがよさそうだ。

マニアックな質問攻めをして弁護士論破しても意味がない

 されど、あんまり重箱の隅をつつくような質問を用意して、それに答えられなかった弁護士に、鬼の首を取ったように得意満面しても、全く意味がない。あくまでも、キーワード質問は、弁護士を依頼する前提として、その弁護士の経験値をはかるための手がかりにすぎず、弁護士道場破りをするものではないから、本末転倒にならないように注意されたい。

 なお、知識の多さと経験値は概ね比例するけれども、経験値の高い弁護士でも、条文に書いてあるような枝葉末節の知識などは、いちいち暗記していないという弁護士が多そうだ。だから、もし質問するにしても、その分野について十分取り扱った経験のある弁護士なら、だれでも即座に答えられるようなキーワード、これをぶつけてみるべきだ。じゃあ、そのキーワードとは何だと尋ねられても、その分野を得意とする弁護士に聞いてくださいとしかいいようがない。結局、堂々巡りの話になってしまった(笑)。

弁護士に紹介してもらうのがベスト

 ちなみに、良心的な弁護士は、自分の不得意分野であれば、得意そうな弁護士を紹介するはずだ。全分野を得意とする弁護士はまずいないはずだが、ある程度経験を積んだ弁護士なら、相談された法律問題がどの分野の事件類型かという切り分けはできる。そして、その分野を得意とする友人・知人の弁護士を紹介するわけだ。そうやって、お互いの分野ごとに紹介し合うような、そんな関係を築いているのが良心的かつ普通の弁護士の仕事ぶりと言える。

 この辺は、弁護士が長年に築き上げた人的ネットワークに負うところが大きいので、まさに弁護士経験年数がものを言う場面だろう。新人弁護士同士で紹介し合っても、どちらも新人である以上、あまり意味がない。

さらにつづく

 だいぶ長くなったので今日はこの辺にしておく。弁護士の経験値の見極め方について、さらにこの先、続けていこうと思う。本を書いているとか、テレビに出ているとか、そういうのは参考になるのかどうかなど。

つづく

  

※参考・・・専門性に対する日弁連の考え方

『弁護士及び弁護士法人並びに外国特別会員の業務広告に関する運用指針』(抜粋)

(平成22年11月17日 日弁連理事会議決)

ア 「専門分野」は、弁護士情報として国民が強くその情報提供を望んでいる事項である。しかし、現状では、何を基準として専門分野と認めるのかその判定は困難である。弁護士として一般に専門分野といえるためには、特定の分野を中心的に取り扱い、経験が豊富でかつ処理能力が優れていることが必要と解される。ところが、専門性判断の客観性が何ら担保されないまま、その判断を個々の弁護士にゆだねるとすれば、経験及び能力を有しないまま専門家を自称するというような弊害もおこりうる。したがって、客観性が担保されないまま「専門家」、「専門分野」の表示を許すことは、誤導のおそれがあり、国民の利益を害し、ひいては弁護士等に対する国民の信頼を損なうおそれがあることから、現状ではその表示を控えるのが望ましい。専門家であることを意味するスペシャリスト、プロ、エキスパート等といった用語の使用も同様である。なお、現実に「医療過誤」、「知的財産関係」等の特定の分野において、「専門家」というに値する弁護士及び外国法事務弁護士が存在することは事実である。しかし、弁護士間においても「専門家」の共通認識が存在しないため、日本弁護士連合会の「専門」の認定基準又は認定制度を待って表示することが望まれる。

イ 「得意分野」という表示は、その表現から判断して弁護士の主観的評価にすぎないことが明らかであり、国民もそのように受け取るものと考えられるので許される。しかし、主観的であれ得意でないものを得意と表示することは事実に反する表現と認められるおそれがある。したがって、豊富な経験を有しない分野については、「積極的に取り込んでいる分野」や「関心のある分野」という表示の方が、正確かつ誠実である。

ウ「取扱い分野」、「取扱い業務」という表示は、専門等の評価を伴わないので許される。

 以上

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 弁護士の選び方(1)・・・広告(総論)

 弁護士の選び方(2)・・・ホームページ(総論)

 弁護士の選び方(3)・・・学歴

 弁護士の選び方(4)・・・経験年数

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