弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

金を貸す時に注意すること

 お金の貸し借りにまつわるトラブルは、ありがちな法律問題のひとつだ。今日は、このお金の貸し借りでトラブルが起こらないようにするための注意点・予防策をお話ししてみよう。

資力がなければ返ってこないことを知る

 まず一番大切なのは、相手に金(資力)がなければ、どうあがいても金は返ってこないという理解だ。ここ、本当に当たり前で大切な観点なんだが、忘れがちの人が多い。

 借用書をしっかり作ろうと、裁判で勝訴しようと、相手に金がなければ借用書にしろ勝訴判決にしろ絵に描いた餅だ。だから、相手に金がなかったら、貸したお金は返ってこない。これを肝に銘じておく必要がある。勝訴判決を取っても金が返ってこないって、そんなことなら法律も裁判所も要らないじゃないか!と憮然とする方もいるだろう。そういう方には、なぜそうなってしまうかを説明するので、ここをお読み頂きたい。私のブログ「裁判に勝てますか?」

担保が重要

 相手に金がなければ貸したお金は返ってこないわけだから、このリスクを回避するためには「金のある相手」や「金目の物」を予め見つけておけばよい。これが担保だ。

 貸した相手から万一金が返ってこなかった場合には、金を持っている別の人に私が立替払いしますという約束をさせること、これを「保証」という。この保証をさせておけば、貸した相手から回収できなくても、保証した人(=保証人)から回収できる可能性が高まる。ただし、保証人だって、返済する時点で金がなければ立替払いできないわけだから、保証は担保として万全ではない。保証人は頭数ではなく、その人の資力の有無だ。だから、その日暮らしの気ままなプータローを保証人にしても意味はない。公務員や上場企業勤務の会社員、無担保の不動産や預貯金をたくさん持っている人など、安定した所得があったり多くの資産を保有している人、こういう人を保証人に取ってはじめて実効的な担保になる。

 一方、予め「金目の物」を確保する形の担保もある。たとえば、貸した相手が持っているブランド品を預かっておく(もしお金を返してくれなかったらこれを売り払う)代わりにお金を貸す、こういう形式のことを「質(しち)」という。質屋さんの質だ。また、相手が持ち家など不動産を持っているなら、その不動産に「抵当権」を設定する。抵当権は担保として最強なんだが、価値のある不動産に抵当権を付けられるくらいなら、あなたのような個人からお金を借りまい。あなたから借りなくても銀行から借りられるからだ。だから、個人からお金を借りようという人が満足な抵当権を付けられるとは思えないが、それでも不動産を持っている相手なら、ともかく抵当権を付けておけば、最低限、判子代と称して数十万円程度の回収が出来る可能性もある。このあたりのカラクリは、いずれ債権回収のノウハウをお話しするときに詳しく述べたい。

  担保ないし担保的に使えるものはいろいろな種類があるので、物や債権や人脈など、相手が何を持っているかによって使い分けることになる。ここでは書き切れないので、これもまたいずれお話ししよう。

せめて公正証書を

 保証人や抵当権などの担保を付けることが重要であるが、あなたからお金を借りようとする人は、保証人を用意したり、抵当権の対象となる不動産を持っていたり、そんな余裕がある人は少なかろう。そうすると、まさに貸した相手だけを信用してお金を貸さざるをえない事態が出てくる。

 この場合、最低限、借用書を取っておくことが大切だ。この辺は当たり前の社会常識としておわかりだろう。

 そして、もう一歩踏み込んで、「公正証書」を作っておくことをお勧めする。ここでいう公正証書とは、公証役場で公証人によって作成された借用書だ。借用書が公正証書になっているのといないのとでどういう違いがあるかというと、「裁判を省けるかどうか」だ。借用書が公正証書になっていないと、相手が金を返してくれない場合に、裁判を起こす必要がある。その裁判に勝つための証拠として借用書を使うことになる。一方、借用書が公正証書になっていると、裁判を起こさずに、その公正証書に基づいて直ちに強制執行をすることができる。裁判自体を省くことができるのだ。どんな簡単な裁判でも勝訴判決が確定するまでに最速で数ヶ月以上かかるし、弁護士を依頼すると費用もかかるから、予め公正証書を作ってあることによってこの時間と費用がセーブできるのは大きい。

 借用書は公正証書で作る、これを頭に入れておくといいだろう。

金融機関を見習え(事前の資料収集)

 もうひとつ重要なことを言う。

 お金を貸す際には、相手の資力情報をゲットすること、つまり、相手の資力の手がかりとなる財務資料を相手に提出させることだ。銀行や金融機関が融資の際に聴き取る情報や出させる書類を見習えということだ。例えば、確定申告書や給与の源泉徴収票、こういったその人の資力を公的に示す情報は是非コピーをもらっておきたい。特に確定申告書はその人の資力が網羅的に記載されているので貴重な財務資料になる。

 なぜ相手の財務情報が重要かというと、それは強制執行するためだ。公正証書が作ってあって、裁判を省くことができたとしても、任意に支払をしない相手から実際にお金を回収するためには、強制執行という裁判所の手続を利用する必要がある。この強制執行は、裁判所にお任せで適当にやってくださいと丸投げすることはできない。相手の財産を特定して申し立てる必要があるのだ。例えば、どこそこにある不動産とか、相手が勤務している○○株式会社からの給与とか、相手が預金口座を持っている○○銀行○○支店だとか、そこまで特定する必要がある。会社の場合は、取引先や取引情報を得ておくと、売掛金の差押がしやすい。

 だから、相手の資力情報が予めわかっていないと、強制執行そのものができない。相手の資力情報を事前に知っておくことが大切になる。このあたり、私のブログ「裁判に勝てますか?」を改めて読んで頂きたい。

全ては貸す時にやるべき事

 担保を取ったり公正証書を作ったり財務資料を収集したり、こういう努力は、当然のことながらお金を貸すまでにやっておかなくてはならない。お金を貸した後でリクエストしても、相手はのらりくらり応じないことが多いだろう。喉元過ぎればというやつだ。だから、貸す前までに全て整えて、その上でお金を貸す。これが大切だ。 

結局、あげたつもりで貸す感覚も

 相手に金がなければ貸したお金は返ってこない。たいがい、お金を貸してくれと言う人は、少なくとも借りる時点では金がないから言うわけだ。そうすると、金がない以上危なっかしくて貸せないという結論になってしまうわけだが、そのとおり、安全のためにはそれがベストだ。しかし、そういっていられない場合もあるだろう。

 この場合には、少なくとも上記注意点を考えながら貸すことになるわけだが、ここでもう一度言う。冒頭述べたとおり、相手にお金がなかったら貸した金は返ってこない。どんな優秀な弁護士を依頼して裁判に快勝しても、お金が無いうちは返ってこない。この現実を理解しておくべきだ。だから、絶対に返してもらわないと困るという虎の子のお金を無担保で貸すのは、やっぱりやめておくべきだ。お金を貸す場合には、もし返ってこなくても仕方がないという、あげたつもり感覚を多少とも持っていないと、後々ほぞをかむことになる。

 もちろんここでお話ししたことは一般論だ。ケースバイケースなので、心配な相手にお金を貸す場合どうしたらいいか、実際に貸したお金が返ってこない(返ってこなくなりそう)という状況になったらどうしたらいいか。この場合には、早めに弁護士に相談に行くといい。貸金トラブルは法律問題としては基本類型なので、経験値さえ積んでいれば、多くの弁護士が的確にアドバイスできるはずだ。

(以上)

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