弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

弁護士の選び方(9)・・・弁護士会長とか

 前回予告では、ヤメ検・ヤメ判について語る予定だったが、面白いニュース記事があったので、今回は予定を入れ替えて、弁護士会長・副会長などを務める弁護士についてお話ししてみたい。つまり、弁護士会長や副会長などの役員は、弁護士として凄腕なのか、事件処理を依頼するための加点事由になるのかだ。

全弁護士が爆笑した!

 先日、こんなウェブニュース記事が掲載された。

 これは、東スポWebの記事だから、ネタ的な部分は差し引いて考える必要がある。それにしても、ここに書いてあることが、世間一般の感覚に近いだろう。

 この記事に全米が泣いた! じゃなくて、全弁護士が爆笑した!

一般人なら笑わずに凄いと思いそうなところ

 この記事で、世間一般の人が凄いと感じそうなのは、次の部分だろう。

 「三船側に日本弁護士連合会(日弁連)元副会長の辣腕弁護士がついた」

 「三船が法廷に送り込んだのは、やり手の辣腕弁護士だった。日本全国の弁護士約3万5000人が加盟を義務付けられる日弁連の元副会長、東京弁護士会では会長を務めた○○氏」

 「多くの離婚問題を担当してさばいている。かつて宇都宮さんの“右腕”でもあった」

 「○○さんは絵画が得意・・・“弁護士会のモネ”と一部で呼ばれています」

 「三船側に大物弁護士がついたことで形勢はいつ逆転するか」

 要するに、日弁連の副会長や東京弁護士会の会長は「大物」であり「辣腕弁護士」であり「弁護士会のモネ」らしいのだ。いや、これだけ読むと、すげぇとしか言いようがない。大物敏腕のモネに頼んじゃったら、三船さん、余裕で勝てるかもと思えてしまう。

 しかし、これ、弁護士なら腹を抱えて笑ってしまう記事だ。実際、弁護士仲間内で早速ネタにされている。

弁護士なら笑っちゃうところ

 まず大爆笑するのは「弁護士会のモネ」。まさにこれは東スポ一流のネタだろうけれども、○○さんがそう呼ばれているとは初めて知った。実は、ここで三船さん側の代理人となった○○さんは、私自身、同じ弁護士会の同じ政策グループ(会派)の仲間であり、面識のある方だ。人となりを存じ上げているので、ますます笑ってしまう。次に会ったら、「モネ先生」と呼びかけてみよう。ここは本題と関係なく、単純に大爆笑だ。

 つぎに中爆笑は「宇都宮さんの右腕」だ。確かに、日弁連副会長は、職制上右腕的存在に見えるけれども、宇都宮さんと○○さんは、もともと政策の方向性が違う。政策によっては自民党と共産党くらい考え方が違うので、宇都宮さんの右腕だと記事にされて、○○さんは忸怩たる思いがあるんじゃないか。そもそも、当時の日弁連会長選挙で、○○さんが推した日弁連会長候補は宇都宮さんではなく別の弁護士だったわけだが、その方が落選してしまったので、自分とは考え方が違うところのある宇都宮さんのもとで副会長をすることになった。宇都宮さんの弟子ではないので、右腕ってなんだよププっという感想だ。

 なお、東京弁護士会の会長は、日弁連の副会長に慣例上自動的に就任する。日弁連の副会長はひとりだけではなく10人以上いるが、各地方の弁護士会会長の5人にひとり程度が、日弁連の副会長にも同時就任する。東京弁護士会会長=日弁連副会長なので、○○さんは、宇都宮さんに抜擢されて右腕として可愛がられたわけではない。

 さて大爆笑・中爆笑はネタとして笑えるだけだが、ここからが肝心なところだ。

 弁護士がどちらかというと困惑しつつ笑ってしまうネタは、弁護士会の会長や副会長を務めると大物だとか辣腕だとか評価されてしまう点だ。これ、時々依頼者の口から出ることもある。「先生!相手の弁護士は、弁護士会長だった人らしいですよ!大丈夫ですか?」と。

  しかし弁護士は、弁護士会長の部下でもなんでもない。もし弁護士会が会社のような組織だったら、会長を恐れ多く思うこともあるだろうが、弁護士会は会社ではない。むしろ弁護士会は、町内会、マンション管理組合のような一種の互助団体だ。だから、個々の弁護士は、弁護士会長に対して、御苦労様の念こそあっても、弁護士会長に従おう、言うことを聞こうという意思はない(むしろ自分の意向を弁護士会長を通じて反映させたいという意思が強いだろうか)。業務上、弁護士会長が大物だとか恐るべき存在だとは思っていない。実際「弁護士会の仕事」を頑張ってもらえそうだから会長に選ばれただけで、その弁護士の「弁護士としての事件処理」が辣腕であるかどうかで選ばれたわけではない。

 だから、相手の弁護士が弁護士会長でも、自分が依頼している弁護士との能力差に反映しないので、一切気にしなくていい。能力差があったとしたら、それは弁護士会長だからではなく、単純に弁護士としての経験値の違いにすぎない。

会長のイメージは町内会長

 ここで、会長・副会長など弁護士会の役職に対する、弁護士の多くが考えていそうなイメージをお伝えしよう。

 弁護士会長は、会社の社長とか会長ではなく、町内会長、マンション管理組合理事長、生徒会長、こんなイメージだ。会社の社長は、会社員であれば目指す人も多そうだが、弁護士会の会長を最初から目指す弁護士は少ない。町内会長やマンション管理組合の理事長を目指す住人が少ないのに似ている。また町内会長やマンション管理組合の理事長に選ばれたとしても、その人の本業が辣腕か大物かとは全く関係ないのにも似ている。

 では、なぜ弁護士会の役員をやりたい人が少ないかというと、調整役として大変そうだからだ。これが会社なら、社長になれば社員を使って思い通りに会社経営できて面白そうだ。しかし、弁護士会は、会長が個々の弁護士の業務に指示出しできるわけではなく、弁護士業界を思い通りに経営できるわけでもない。むしろ会員である弁護士の不満を吸い上げて調整したり、弁護士が社会正義を実現するための施策や提言をとりまとめたり、そういう世話役としての立場にある。会員からの突き上げや会員同士の意見調整、一方で、会外との調整、多分に政治的な感覚も必要とされる激務だから、これは本業の片手間に簡単にできる仕事ではない。このため、だれかがやらなくてはならない仕事なのに、多くの弁護士が積極的に手を挙げないのが弁護士会の会長・副会長なのだ。

 そういう意味では、弁護士会の役員は、多くの弁護士から御苦労様という慰労の念は持たれているだろう。人がやりたがらない弁護士会の仕事を十年以上進んでやってきた結果として、会長や副会長に選任されるので、業界内では、あの人は頑張っているという人望は大いにあると思う。弁護士会の役員は、本業の仕事ができる人かどうかとは別に、弁護士会の仕事を頑張ってきた人、弁護士会の調整役として辣腕ということは言える。

 そもそも地方の弁護士会だと、会長や副会長の選出は、事実上持ち回りでやるところも多いと聞く。全員ではないにしても、弁護士会で熱心に会務をしている人達の中で持ち回りで順繰りに会長に就く。くじ引きと一緒だ。こういう点でも町内会長同様で、仕事の腕がいいかどうかと結びつくものではない。 

事件処理能力ではなく人望

 このように、弁護士会の役員は、「弁護士会」の仕事を頑張ってきた人として評価されているけれども、「弁護士」としての事件処理の腕がいいかどうかとは全く関係なく選ばれているので、弁護士選びに際して、役職経験を実力の判断基準にする意味はない。

 ただ、少なくとも評判の悪い人、人望のない人でないことは、ほぼ確かだろう。弁護士と依頼者とは信頼関係で結ばれるのが基本であり、弁護士の人柄は重要な要素だ。だから、弁護士会の役職は、その弁護士の事件処理の実力を示すものではないけれども、いい人柄である可能性は高いと思っていいだろう。

 なお、東京など大都市について言えば、弁護士会の業務は激務なので、会長・副会長現職の間は、平日日中、本業の事件処理を行うことは困難だ。だいたい弁護士会館に詰めて役員室で弁護士会の仕事をしている。弁護士としての個々の事案処理は、夜間や休日に事務所で頑張っている人が多そうだ。だから、現職の会長や副会長に仕事を依頼すると、その弁護士自身が一から十まで全部仕事を担当してくれる可能性は低いかもしれないと覚悟しておいた方がいいだろう(もし全部担当してもらいたいなら、依頼する時に、先生が全部やってくれるんですかと確認しておいた方がいいだろう。)。

つづく

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