弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

弁護士の繁忙期など

 今、世間はいわゆる年度末のようだ。そして異動時期のようでもある。いつが忙しいんだか暇なんだかよくわからないけれども、ともかく世の中には繁忙閑散の波がある。そこで、弁護士にもそんな波があるのかどうか、これを私の主観でお話ししてみよう。念頭に置いているのは、東京の「町弁」(まちべん。町医者のごとく少人数の個人事務所で民事刑事全般広く取り扱っている弁護士)だ。

なんといっても3月4月と8月

 3月下旬から4月上旬あたりにかけて裁判所の異動時期だ。また、8月ころは裁判官が長めの夏休みをとる(裁判所が閉まるわけではない。)。このため、裁判の期日があまり入らず、時間の余裕ができやすい。

 裁判の期日が入らないとなぜ時間の余裕ができるかというと、こういうことだ。弁護士の忙しさって、実は「自ら裁判所まで行かなければならない」ことが一つの要因になっている。民事事件の弁論期日は、だいたい数分程度で終わってしまうことが多いが(「準備書面陳述します」「それでは次回期日・・・」という数十秒のやりとりで終わることも。)、その数分程度のやりとりのために、実際に裁判所まで足を運ばなくてはならない。これが東京地裁なら、例えば四谷にある私の事務所から霞ヶ関の東京地裁まで片道20分、往復40分、裁判所の待ち時間10分として、まあ1時間以内に収まる。それでも1時間だ。しかしこれが例えば水戸地裁下妻支部となると、もはや私の事務所から電車だと、乗り継ぎ次第では大阪に行くより時間的には遠くなってしまう。つまり一日仕事になってしまうわけだ。だから、裁判期日が入っている日と入っていない日とでは、日中の時間の使い方が全然違うことになる。

 このように裁判所に出頭する手間が切実な問題になるため、できるだけ近い裁判所で裁判ができるよう苦心することになる。学生時代には殆ど見もしなかった訴訟法の管轄条文に詳しくなるし、契約書チェックをする時も合意管轄裁判所が気になる。自庁から動かない裁判官や、裁判所と隣り合わせの庁舎とを往復するだけの検察官では実感できない苦労だろう。

もちろん年末年始とGW

 世間全体がお休みになる年末年始とゴールデンウィークは、弁護士も世の中に合わせてお休みを取ることが多い。年末年始もGWも働きづめという町弁は多くないと思う。裁判所がお休みになるし、企業も休みだし、だからみんなが休みのこの時期に一緒に休んでしまった方が、この時期をずらして休暇をとるよりも仕事が滞留しないというメリットもある。

 なお、事務所は閉めるけれども、この時期に集中して調べ物をしたり起案をしたりするために事務所に出てひとり静かに仕事をすることはありそうだ。

土日・夜間はどうか

 土日に仕事をしている弁護士は結構多い。これは東京に限らず日本中どこの弁護士もそうだろう。もちろん、土日一切返上で一年中仕事をしている町弁は多くなさそうだが(それこそワーカホリックだ。)、土日は電話が来ない、来客がない、事務所内がうるさくないから集中して仕事ができる。我々の仕事は、半分以上が「物書き」仕事、つまり文書作成だ。弁護士は法廷で丁々発止議論する仕事とイメージされがちだが、実際はそうではない。仕事の中心は調べ物と書き物のデスクワーク、あと電話やメールを含めクライアントとの打ち合わせだ。だから、調べ物や書き物に集中できる土日は有り難い。

 また夜間も同様だ。クライアントとの食事だとか業界の会合がある場合には18時とか19時には事務所を出てしまうが、そうでもなければ、18時とか19時以降が、やはり調べ物や書き物に集中できるゴールデンタイムになる。私の事務所でも、事務所の代表電話は19時には留守電にしてしまうが、弁護士やスタッフはその後も残って各自の仕事を黙々としていることが多い。

これといった繁忙期・閑散期はない

 税理士だと3月の確定申告前とか、公認会計士だと決算のある3月から5月くらいが忙しいとか、耳鼻科の医師なら春先の花粉症時期に患者さんが多いとか、飲食店だと2月と8月が閑散期だとか、ある程度繁忙閑散の傾向がありそうだが、町弁の場合は、決まって忙しい時期はない。ただ、なんとなく通年で忙しい感を持っていて、3,4月と8月や世間の休暇期間だけはちょっとだけ落ち着くと感じている弁護士は多いだろう。私は今さほど忙しくないが、それでも向こう1ヶ月先まで平日に何も予定が入っていない日は殆どない。

 一方で、我々は職人仕事なので、自分で仕事時間をやりくりすれば、平日休みを取ることは難しくない。1ヶ月以上先の予定であれば、この日はお休みにするとか、この週は旅行に行くとか、そういう時間調整は十分可能だ。もちろん、その時になって重要なクライアントから緊急案件が入れば休日返上になってしまうわけだが、そうでもなければ、平日ゴルフだとか安い時期に海外旅行とか、その辺は自由になる。実際、税理士や公認会計士のように3月は忙しくなく、かつ裁判期日が入らず時間に余裕ができるので、3月末に海外旅行など休暇をとる弁護士は多いように思う。その代わり、休む分の仕事が前倒しで忙しくなったり、休み中に累積した仕事でのしわ寄せで休み直後に大変な目にあったりするわけだが、この辺は自己責任にて。

 こんな風だから、クライアントと雑談をする中で、「先生、お忙しそうですね」とか「先生、お忙しいですか」と言われると、何となく曖昧な笑いを浮かべつつ「ええ、まあ」という風に答えるしかないわけだ。

ちなみに企業法務弁護士や新人弁護士は

 ちなみに企業法務を主として手がける事務所の弁護士(大規模なローファームであることが多い。)は、今日の話にはあてはまらないかもしれない。私は企業法務特化の事務所に在籍したことはないので、友人知人からの伝聞だが、こういう事務所の弁護士はとても忙しいらしい。クライアント企業の流れに組み込まれる形で仕事をするので、特にアソシエイトクラスは馬車馬のように働いていると聞く。こういう事務所の新人弁護士の年俸は相変わらず高いところもあるようだが、時給換算すると実は大したことがないかもしれない。

 しかし町弁でも新人のうちは、企業法務弁護士並みに働いて然るべきだ。裁判官が10年でようやく判事補の「補」がとれて判事になり、検察官が8年以上勤め上げてようやく二級から一級になるように、弁護士も登録から5年や10年は新人と思って研鑽を積む職人稼業だ。だから、この期間は、町弁であろうと馬車馬のように働いていていい時期だろうと思う。私も、弁護士登録5年目で独立するまでは、月曜から土曜日まで朝から終電まで仕事をすることが多かった。実は独立した後の方がもっと忙しかったりするわけだが、ともかく最初のうち忙しいに越したことはない。

 特に弁護士は裁判所や検察庁ほど強制的研鑽システムが充実していないので、ベテラン弁護士の方が実は新人弁護士よりも勉強不足になりがちだ。ある程度仕事がわかってしまうだけに、それ以上勉強しなくなるという怠け癖がつきやすい。このため、ベテラン弁護士こそ、時間に余裕がある時期には自己研鑽を心がけなくてはならないと思う。板前や大工が包丁やカンナを研ぐが如く、法律の研鑽は当然だが、語学であるとか一般教養の研鑽も重要だろう。

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