弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

横領する弁護士たち:その傾向と対策

 こんな事件報道があった。

なぜ今時の弁護士は依頼者の金を着服するのか?

 実に嘆かわしいことだが、昨今、弁護士が依頼者の金を着服する事件が相次いでいる。弁護士は他人の財産を預かる仕事だから、銀行なみに高額の金銭を保管する場面が多い。冒頭掲載の件も、またかと思わされる事件だ。本当にいいかげんにして欲しい。

国も弁護士会も銀行もチェックしているわけではない

 弁護士の預かり金は、原則として誰からも個別にチェックされていない。

 破産管財人が管理する預金口座(高価品保管口座)など、一部は裁判所によって多少チェックされているが、少なくとも個別の依頼者からの預かり金は誰もチェックしていない。だから、弁護士が横領しようと思えばやりたい放題だ。つまり専ら弁護士の良心に委ねられているというのが現実だ。

 これを弁護士の良心だけではなく、業界的に何らかの監督や保証を施すべきだという議論はあるが、ともかく現状はそうなっていない。もちろん、そうなっていなくとも、圧倒的に多数の弁護士は依頼者の金を横領しようとは考えないし、実際にそんなことはしない。まさに弁護士の志がそうさせるわけだ。人を助けようという青雲の志を持って弁護士になった者が、好んで横領することはない。こういう志や倫理観は完璧に信頼して頂きたいと、言えるものなら言いたい。

 しかし、それでも依頼者の金を着服する弁護士がいる。それが現実だ。

【傾向】おそらく借金 

 その理由を想像するに、おそらく借金だ。

 借金が出来る原因は、(1)バブル期に投資で失敗した、(2)分不相応な贅沢遊興生活を続けた、(3)経営能力が乏しいため資金ショートした、(4)特定のクライアントに依存しすぎて切られた、(5)政治好きの選挙かぶれ、この辺が思いつく。要するに、昭和時代の中小企業社長にありがちな落とし穴にはまったと同様の結果だ。

(1)バブル期の投資

 僕はバブル崩壊後に弁護士になったので(平成3年司法試験合格)、実際にバブル当時の業界事情は知らないが、先輩から話を聞くところによると、相当フィーバーした人たちがいたようだ。そしてご多分に漏れず、多額の借金が残った人もいるようだ。

 弁護士は格好つけが多いから、バブルに失敗して多額の借金が残ったと公言する人は少なそうだ。昭和時代にバブル投資して派手にお金を回していた弁護士の中には、密かにまだ借金まみれという人が残っていそうな気がする。

(2)分不相応な贅沢遊興生活

 弁護士は儲かる仕事だと世間に思われやすい傾向がある。

 しかしそれは誤解だ。儲かるとはどの程度のことなのか人それぞれ感覚問題だと思うが、全く無責任に適当な個人的感覚で申し上げると、中堅の経営者弁護士ですら、なんとなく多いのは所得1000万円台から2000万円台くらいまでではないだろうか。事務所経費で使う分を考えると実所得感はもう少しあるにせよ、法律事務所に認められる経費など、家賃や人件費を除けば、書籍だとかPCだとか交通費だとか僅かばかりの接待交際費程度で、たいしたことはない。まして駆け出しの弁護士(イソ弁)だと数百万程度というのが多いだろう。イソ弁で所得1000万円なんて、今の時代まずなさそうだ。

 これが1億以上の年間所得を稼ぎ出す弁護士なんて、いや所得5000万円以上であろうと、僕は殆ど知らない。もちろん僕自身だって売り上げはともかくとして、そんな所得は到底ない。となると、弁護士は儲かるとか金持ちだと言われる仕事とはちょっと違う感じがする。儲かる仕事って、企業家だとか、もっと別のところにある。

 おそらく弁護士が儲かると誤解されるのは、報酬単価の高さからだろう。例えば普通の訴訟事件だと着手金で50万円とか100万円とか頂戴することがよくある。個人の財布から頂くとすれば相当な高額だ。だが、こういう報酬を毎日もらうことはできない。大量生産できる仕事ではなく、一人の弁護士が毎日新しい依頼を受けられるほど時間的余裕は無いからだ。なのに、その中から事務所の家賃や人件費などの経費を支払う。さらに、その50万円とか100万円だけで、半年も一年も、一人の弁護士がつきっきりでその依頼者のために時間と労力を割く。弁護士を完全確保して特注のオーダーメイド仕事をさせる対価として、この額は決して高くないだろう。おそらく時給にするとたいしたことはなく、事案によっては赤字もある。

 そんな程度の稼ぎをしている弁護士が、毎晩銀座や六本木のクラブに通っているとか、マイバッハに乗っているとか、豪華モーターボートを葉山に係留させているとか、なんちゃらヒルズのペントハウスに住んでいるとか、なんだか分不相応な気がする。日本中で百人もいないであろうごく僅かの勝ち組弁護士か、親の相続でも無い限りは、借金でそんなことしてそうな臭いがする。

(3)経営能力の本質的欠落

 弁護士は依頼者に対しては頻繁に駄目出しするが、自分のことにはからっきしダメなことが多い。僕自身、人のことは言えないと思う場面がある。紺屋の白袴、医者の不養生だ。

 特に我々が自戒して知るべきは、我々は法律のプロであっても経営のプロではないということだ。会社顧問などをやりつつ、会社経営者たちに偉そうに法律の蘊蓄を語っているうちに、経営全般についても知ったかぶりになりがちだ。しかし本来、我々は経営に疎い。財務会計の知識は元々持っていないし、そもそも出自が文系なので数学が苦手だ。現代経営は数学のようなものだ。

 それでも10年以上前までは、なんとなく事務所を開けば普通にやっていくことはできた。ありがたいことに、僕も1999年、前世紀末に事務所を開いて何となくここまで来られた。経営の細かなことなんて考えずにどんぶり勘定でも何も問題ない程度に経営ができた。

 しかし、そうできた理由は「業界がぬるかった」からだ。つまり弁護士の数が少なく、弁護士に希少性があったので、特に経営努力をしなくとも殿様商売ができていたということだ。

 今もまだ世間からすると相当ぬるい業界だと思うけれども、もともと経営の才覚が無い弁護士にとっては、昨今の弁護士増は脅威なはずだ。そして実際に、古い業務形態で事務所経営をしているところは、依頼数が尻すぼみで顧問契約も漸次打ち切られ、資金繰りに苦労しているところが結構ありそうだと想像する。ここでも武士は食わねど高楊枝に格好つけている弁護士が多そうなので、表に出にくい分、危険度は高い。弁護士は自分の恥を公言しない人種だ。こんなことは言いたくないけれども、放漫経営による潜在的横領予備軍がまだまだ居そうに思う。

(4)特定のクライアント依存

 これは中小企業の連鎖倒産と同じ原理だ。

 特定の会社から依頼される仕事を売り上げの中心に据えていると、その会社から切られたり、その会社が倒産したりすると、経営資金ショートする。また、特定の分野だけを得意としていると(例えば消費者金融からの過払金回収事件だけをやっているなど)、その分野が飽和ないし消滅すると、依頼が減って経営資金ショートする。

 依頼者が特定集中の傾向を持っている事務所や弁護士は、専門性が高いといえば聞こえはいいが、上流からの流れだとか、世間の流行とか、強力な競合他者の登場次第でいつ破綻するやもしれず、端から見ているとドキドキする。

(5)政治好きの選挙かぶれ

 選挙には金がかかる。それも国政選挙レベルになると、高額になる。

 実は弁護士は、政治家から声がかかりやすい立場だ。法律という共通要素による立法と司法の親和性もあって、政治に興味のある弁護士も実際多い。私自身、一族が政治家系だったこともあって、だいぶ前に、某党首から国政選挙に立候補を打診されたことがある。もちろん、そんな資金もないし、あっても手弁当で政治家をすることの馬鹿らしさを子供のころから見てきたし、独立して事務所を軌道に乗せ始めたばかりだしということもあって、迷うことなくお断りの記者会見を開いた。政治屋の駒に使われるなんてまっぴらごめんという反骨意識、世間に顔が知られるなんてとんでもないという警戒心などもあった。いずれにせよ、今の時代、揚げ足取られるだけの政治家に僕は全く興味が無い。

 でもなぜかそんな茨の道に分け入りたいという弁護士がいる。弁護士会の副会長職を任期途中で放り出して代議士になった先輩もいる。申し訳ないが尊敬できない。

 当選すればいいが、多くは落選して借金だけが残る。政治屋どもにいいように使い捨てられた弁護士の残滓だ。

根本原因は、自己破産できないこと

 かくして借金で首が回らなくなったとして、これが中小企業の社長であれば、一も二もなく自己破産で解決だ。借金整理の王道は自己破産。何も迷うことはない。

 ところが、これが我々弁護士の借金整理となると事情が異なる。なぜなら、弁護士は自己破産すると資格を失うからだ(弁護士法7条5号)。つまり借金もなくなるが、弁護士資格もなくなる。他人の財産を預かる仕事に就く者が、自己破産すればその資格を失うのは当たり前と言えよう。

 ここに、弁護士が自己破産せず借金返済にこだわる原因がある。

 弁護士を続けたい以上、借金を返済するほか無い。だから、弁護士を続けたいという馬鹿なプライドと欲望を守るために、依頼者の大切な金に手をつけるのだ。守るために護るべきものを犠牲にするというダークサイドに堕ちた弁護士の完成である。

事件屋やヤクザ

 そして、借金返済するしかない弁護士の弱みにつけ込んで悪魔の手をさしのべるのが、事件屋(非弁)やヤクザたちだ。もともと弁護士は資格という高下駄を履いた生ぬるい業界で殿様商売をしていたから、借金返済をダシにしてつけ込まれるのは意外と簡単だ。

 古くからありがちなのは、弁護士が事件屋に看板を貸すという手口だ。借金整理は弁護士でなくともやりやすい事件処理類型だから、弁護士資格のない事件屋が、例えば事務局長などという肩書きで法律事務所に入り込み、弁護士自身には借金返済の原資と生活費程度の「給料」を払ってやり、法律事務所の看板の下に邪な金儲けをするわけだ。

 シロアリかイナゴのようなもので、こういう事件屋に入り込まれた事務所は、しまいには事件屋が依頼者の金を片っ端から全部食ってトンズラされる。看板を貸した馬鹿弁護士だけが後に残され、自分が食ったわけでもないのに、依頼者の金を横領した弁護士として新聞に載って逮捕される結末になる。馬鹿にせよ哀れだ。

【対策】さて「見分け方」はあるか

 ここまで弁護士が依頼者の金を横領するに至る構造をお話ししてきたが、それでは、そんな弁護士に依頼しないよう、見分けるポイントはあるのだろうか。

 実は確たる見分け方のポイントはない。圧倒的に多くの、「ほぼ全部」の弁護士は横領などしないからだ。

 しかしそれでは一般市民の参考にならないし、同業者たちの不始末に、僕はちゃぶ台をひっくり返したいくらいに苛立っているこの状況で、敢えていくつかのポイントをお話ししたい。なお、これらのポイントにヒットしたからといって、その弁護士が横領する可能性があると断ずるわけではないので、最終的には一つの参考要素として自分の感覚で判断して頂きたい。

(1)お金を預かりたがる弁護士

 通常の弁護士の感覚として、依頼者のお金はできるだけ預かりたくない。

 特に高額のお金は、キャッシュでなく銀行扱いであっても預かりたくない。なぜなら、銀行がつぶれるかもしれない、ネットバンキングがハッキングされるかもしれない、事務所に泥棒が入って預かり金口座の通帳と銀行印を持ち去られるかもしれない、弁護士はよくても事務職員が横領するかもしれない、心配し始めたらいくらでもリスクはある。弁護士はリスクヘッジが仕事だから、基本的に心配性なのだ。だからできるだけ預かり金口座の残高は少なくしたい。これが普通の弁護士の感覚のはずだ。少なくとも僕の信頼できる弁護士の友人たちは、皆そう言う。

 にもかかわらず、合理的理由もなく依頼者のお金を預かりたがる弁護士は、普通の弁護士の感覚とは違うと思ってよかろう。

 ただし、依頼者のお金を預かりたがる合理的理由があるとすれば、最も多いのは「報酬や実費の確保」だ。せっかく成果を挙げても、報酬を払ってくれない依頼者というのは残念ながら居る。また、訴訟実費などが意外と高額になることがあり、これを弁護士が立て替えたくはない。このため、事件終了までお金を預からせてくれというわけだ。保証金のようなものだ。こういう場合にはその弁護士が危険とは必ずしも言えない。むしろあなたが報酬や立替金を払わないかもしれないと疑われている可能性がある。

 この場合でも、予定報酬額や予想実費分の預かりは構わないとしても、これを超える分は依頼者自身の口座に振り込んでもらうとか、そういう申し出をしてみてもいいだろう。報酬や実費以上に、とにかく無闇に全部のお金を預かりたがる弁護士を、僕は不思議に思わざるをえない。

 <お金は依頼者が自分で管理する>。これを原則にするのが一番安全だ。普通の弁護士なら、これは願ったりかなったりでもある。利害一致だ。

(2)預かり金口座を作っていない弁護士

 現在の弁護士会の内規では、弁護士は自分の報酬口座と、依頼者のお金を保管する預かり金口座と、しっかり区別すべきことになっている。しかし、しっかり区別したかどうかをいちいち弁護士会がチェックしているわけでないから、そういう内規があっても区別していない弁護士がまだいるかもしれない。だから預かり金の預かり方が不明確な弁護士は、ダメだと思う。

 預かり金口座は、口座名義が「預かり金口 弁護士●●」など一見してわかるようになっている(そのような口座名義での預金口座開設を銀行は認めている。)。報酬口座(=弁護士自身の金)とは、口座レベルで区別している。

(3)やたら羽振りのいい弁護士

 既に述べたとおり、弁護士は儲かる仕事ではない。世間一般の皆様より少し稼がせて頂いているかもしれないことは認めるけれども、そういう多少の余裕があるからこそ、人の幸せを図ることができると思っている。弁護士がことごとく貧乏だったら、お金を委ねるにはちょっと危なっかしい。貧すれば鈍する。だから、弁護士業界は、人数を絞るなどある程度の保護を与えられて然るべきだと思っている。完全な自由競争原理に組み込むのは、市民に与えるリスクが高まるだけだ。これが真理であることは、もはや現実の結果が示している。

 弁護士は儲かる仕事ではないはずなのに、毎晩のように銀座や六本木の高級クラブを飲み歩く弁護士は、僕はおかしいと思う。仮にその程度は余裕で十分稼いでいたとしても、そういう浪費をしていいんだろうかと思う。なんだかやけに羽振りがよく見える(=世間の感覚で浪費しているように見える)弁護士は、借金という以前に、弁護士の資質として、ちょっと心配。弁護士稼業では、普通、やり手の企業家や売れっ子芸能人のような暮らしはできないし、すべきでもない。

(4)紹介者が変・弁護士が変

 例えばNPO法人からの紹介だから大丈夫だと思っても、NPO法人なんてどうにでも適当に設立できるし事件屋の隠れ蓑になっていたりする。なんだか変な紹介者から紹介された先の弁護士は、なんとなく危なっかしい。変な紹介者かどうかは、動物の直感で判断なさってよい。

 そして変な紹介者から紹介された先の弁護士が、もうヨボヨボの爺さん弁護士で、フガフガ挨拶したかと思ったらすぐ居なくなって、あとは目つきの険しい事務局長が相談を承った、なんて展開だったら、もうその事務所に依頼したら絶対にダメだ。事件屋に食い物にされている事務所だ。そんな経験をしたら、すぐさま各地の弁護士会の「非弁取締委員会」に報告して頂きたい。

(5)やっぱり口コミ・紹介かな

 派手な広告を出している事務所は、僅かながらに怪しいところが含まれているので(=広告業者を装った事件屋が牛耳っている事務所だったりするので)、派手な広告を出している事務所だから安心できるとは言えない。広告の派手さはむしろ要注意事項だ。弁護士業務は原則として大量生産できる仕事ではなく、派手に広告するほど集客して大丈夫なのか、そんなに広告宣伝費が使えるほどどうして儲けているのか、という疑問から導かれる問題意識だ。

 やはり安心できるのは、その弁護士に依頼してよかったという友人からの紹介とか、そういう口コミだろう。ただし、ウェブ上にはヤらせの口コミもありそうなので気をつけて頂きたい。

(6)弁護士賠償責任保険に加入しているかどうか

 弁護士の不祥事全てをカバーしているわけではないんだが、弁護過誤等に対して補填する損害保険がある。弁護士賠償責任保険、略して弁賠(べんばい)という。

 多くの弁護士が加入しているが、加入強制ではないので、入っていない弁護士もいる。たいして保険料も高くないし、入っていないのはやっぱり危険だと思うので、弁賠に加入していますか、という質問を依頼前にしておくのも一考だろう。

おわりに

 弁護士の不祥事は、今後の弁護士制度に対する根幹を揺るがす大問題で、我々弁護士全員がこれを憂慮している。そして、弁護士の圧倒的にほぼ全ては横領などしないということ、この点は是非お伝えしたいところだ。とはいえ、それが「ほぼ」である以上は、全員横領しないと保証できないのも現実であり、誠に忸怩たるものがある。弁護士会レベルで、預かり金に対する措置を確立することが急務だと思っている。

 ともあれ、冒頭引用したような弁護士の横領報道が昨今繰り返されていることは、本当に恥ずべきことだ。同業者の不祥事には、衷心からお詫びをする次第である。

(以上)

 

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