弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

【連続ドラマ】弁護士抜きで臨む「調停」の怖さ(3)本人編・第2回

(前回からの続き)

 わあ、ついに調停が始まっちゃう!

最初に聞かれたこと

 調停委員の二人が自己紹介から入ったので、最初は私も自己紹介するのかと思って、「・・・あ、●●町から来ましたAといいます。えっと、年は36歳で、小学6年生の息子と二人暮らしです。旦那とは別居してます。裁判所を利用するのはこれが初めてで・・・」といろいろ話し始めたら、女性の方の調停委員がニッコリほほえんで、「あ、自己紹介はしなくていいですよ。その辺のことは申立書を拝見しているのでわかってますから」って遮った。確かに、そりゃそうだ。私、緊張してのぼせ上がってるみたい。落ち着け。

 顔を赤くしてうつむいたら、女性の調停委員が、「緊張しなくて大丈夫よ。リラックスして普通にお話ししてくれたらいいんです。」って言ってくれたので、顔を上げて調停委員を見た。女性の調停委員はニッコリして、小学校の担任の先生みたいな感じ。男性の調停委員は無表情で黙ってじっとこっちを見てる。やせて神経質そうな感じ。ちょっと怖い。

 「じゃあ、今回申立をなさった理由ですけど、申立書に書いてあることは私たち、事前にちゃんと読んでます。その上で、もう少し事情を詳しくお話ししてもらえますか。」

 ・・・こんな感じで始まった。

 生活費の金額とか、すぐ本題に入るのかと思ったら、調停委員さんたちは、前提となる夫婦の事情とかそういうものを先ず把握したいみたい。こういう面接みたいな雰囲気、ちょっと苦手だな。リラックスして話していいって言われても、調停委員ってたぶん裁判官と同じような人たちだろうから、機嫌を損ねないよう気をつかっちゃうよね。どうしてもぎくしゃくして、うまく話せないので、結婚してから今までの夫婦のエピソードを時系列に綴った「事情書」みたいなものを書いとけばよかった(※10)。

そしていよいよ本題

 ひととおり夫婦のエピソードを話したところで、たぶん30分くらいかかったかな。

 女性の調停委員が、「じゃあ、あんまり時間が無いので、あなたがいくらの生活費を彼に要求するのか、金額はどうしますか?」と尋ねてきた。

 あんまり時間が無いってどういうことだろう、もう調停終わっちゃうのかなと思っていたら、それを見透かしたように、女性の調停委員が「まだ今日の調停は続きますけど、相手方からも話を聞きたいので、お待たせしないように30分くらいで交代しながら続けたいと思ってます」って(※11)。あー、なるほど、片方からずっと話を聞くわけにはいかないよね。納得。

 「・・・えーっと、私、こういうの初めてで、・・・あの、生活費、育ち盛りの男の子もいるし、たくさんもらえたら嬉しいんですけど、・・・でもきっと相場みたいなものがあるんだろうなあって、そういうの、ちょっとよくわかんないです。」って言ってうつむいた。

 そしたら、それまでずっと黙っていたちょっと怖い感じの男性の調停委員が初めて口を開いて、早口に、

 「あなたが申立人なんだから、ちゃんと金額決めてはっきり言わなきゃ。ね?」

 って。目が真剣。わーっ!怖い。怒られたのかな?男性の調停委員怒らせた?やばい!でも、金額なんて今聞かれたってわかんないし、法務事務所の人が申立書を書いてくれたからどんな内容になってるのかわかんないし、裁判所が自動的に金額を計算して決めてくれるのかと思ってたから、突然金額言えなんて言われてもパニックだし。頭真っ白だし。

 黙っちゃってたら、女性の調停委員が助け船出してくれた。

 「ええ、大丈夫よ、申立書には「相当額」って書いてあったから、まだわからないのよね。旦那の収入もわからないしね。うん、最初はそれでいいのよ。でも、ここは調停の場だから、裁判所が勝手に金額を決めるわけじゃないの。だから、あなたの本音として必要な生活費の額を聞かせてね。相手方から話を聞く間、30分くらい待合室で待っててもらうことになるから、その間に、ゆっくり考えてご覧なさい」だって。(※12)

 女性の調停委員、いい人。ちょっとうるうるした。

 私は立ち上がってぺこりと頭を下げると、失礼しますってドアを開けて待合室に戻った。調停室から待合室までの道のりが、ものすごく長く感じられた。相変わらず廊下は薄暗い。男性の調停委員の声だけ耳に残っちゃって、ちょっと鬱。

待合室にて・・・お姉さんGoGo!

 待合室に戻ると、私みたいに、調停室から戻ってきた人たちが何組かいた。待合室はビニールレザー張りの長椅子が並んでいるだけなので、他の人が弁護士さんとかと話している内容が丸聞こえ(※13)。その中で、エキサイトしてるお姉さん発見。

 《だって先生!ひどいじゃないですか、あいつ!あたしの貯金を知らない間に全部下ろしちゃって、キャバ嬢に貢いでたんですよ!もう死ねって感じ。なのに慰謝料これっぽっちしか払いたくないなんて、金ないから払えないとか、おかしいですよ。絶対警察に言います、ね、先生、もう警察にしてください》(※14)

 なんか相手方と激しくバトルしてるっぽい。凄い。金ピカのバッジしてる若い弁護士さん、困った顔してる。お姉さんの方が弁護士さんより強そう。この人なら、それこそ弁護士さん要らないんじゃないかって思った。

 ここに来るまでは、あたしだけ、どんだけ可哀想なのって思ってたけど、実際もっと凄い人もいるんだあって思う。死ねって相手を呪ってるこのお姉さんには申し訳ないけど、ちょっと励まされました。ごめんね、ありがとう。

 いけないいけない、盗み聞きなんてしてる場合じゃないんだ、生活費の額をどうするか考えなきゃ。どうしよう・・・あ、そうだ、彼が単身赴任で別居してたとき、毎月30万円送金してくれてた。住宅費とか光熱費とか携帯代とか別で。それで暮らせてたから、今回もそう言ってみようかな。彼も収入の中から無理なく払えてたからこれだけ送金してくれてたんだよね。うん、そうしよう。我ながらナイスアイデア!

 《だってだって先生!警察にしてください!警察に!》

 うわ、彼女、まだ騒いでる。でも、警察にしてくださいって・・・どういうことだろ・・・。ここ警察じゃないし。この人ちょっと興奮しすぎてわけわかんなくなってるんじゃないかってことだけは、なんとなくわかる。調停って怖い。弁護士さん、それでも一生懸命話聞いてあげてる。大変なお仕事だね。でも、やっぱりこの弁護士さんより、お姉さんの方がしっかりしてそう。若い弁護士さん、負けそう、頑張れ!

 そうこうしているうちに、また優しい女性の調停委員がやってきて、私のことを呼んだ。再び調停室について行く。

再びの調停室、まさかの調停室

 「大変お待たせしました」

 緊張してるから全然待った気がしない。あっという間に呼ばれた感じがする。

 「相手方のご主人からお話を聞いてました。ご主人、家出をしたことは凄く申し訳ながってましたよ。あなたにお詫びしたいって。」

 ふーん、そうなんだ。今更そんなこと言われても、ぜんぜん響かないな。でも、お詫びしたいって言うんだから、反省して生活費はちゃんと払ってくれるんだろうね。まあそういう方向ならいいか。

 「それで、生活費もちゃんと払いたいと思いますっておっしゃってました。」

 お、いい感じ。やっぱり調停って凄いね。独りでやってみるもんだ。ネット情報や行政書士さんの言うとおりだったね。

 「そこでいくらお支払いになるのかを聞いてみましたら、・・・月額10万円を支払いますということでした」

 !!!!!じ、じ、じゅうまんえーん!? 全然足りないやーん。話にならない。丸い目をして調停委員を見ちゃった。そうしたら、調停委員、私の気持ちを察したのか、にっこりしながら、

 「その金額じゃ不満なのよね。うん、わかる。でもね、彼の言い分はこうなの。あなたは彼が女性を作って家出したって思ってるらしいけど、実際は女なんていない。あなたが家計にだらしなくて、いくら稼いでも貯金が出来ないし、以前単身赴任の時には、あなたが毎月彼のお給料を30万円も勝手に使って、彼が単身赴任なのをいいことに子どもを親に預けて夜遊びしてたんだって?そういうあなたの浪費がいやで、相談していた親友の女性ならいるらしいんだけど、決して不貞行為とかそういう関係じゃないんだってよ。だから、あなたの言い分は全然嘘なんですって。むしろ、彼はあなたの浪費癖や夜遊び癖こそ問題にしてる。彼の言い分は、こういうことなの。」(※15)

 !!!!!!!!!!!!!!!!うっそーん!なにこの展開!どゆこと!?

 「あの、あの、あの、あの、それちが、ちが。」

 過呼吸なりそう。倒れそう。気絶しそう。あいつ女いるやん。だって女と裸で抱き合ってるエロ写メ見たし。だって30万円は生活費だって送金してくれてたし、あたし勝手に使ってないし。だって子どもを親に預けて夜出かけたことあったけど、それ同窓会の1回だけだし。だってあいつの方が全然夜遊びしてたし、浪費してたし。どうしてこんなことになっちゃうの?

 思わずあたし、

 「ぜんぶそれ違います!警察にしてください!」

 ・・・言っちゃった。うわーん。

(つづく)

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