弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

弁護士の選び方(13)・・・報酬はなぜ高いのか?

 

 さて今回からは,いよいよ皆さんが一番気になるであろう「報酬」について語ってみる。

弁護士報酬はなぜ高いのか

 弁護士報酬は高いというイメージがあるだろう。

 実際、個人の財布からすんなり出せる金額ではない。会社であっても,弁護士報酬の見積り額に困惑することがあるだろう。これはどうしてなのか、そしてどういう報酬体系があるのか、そして弁護士選びに際して報酬をどう見極めればいいのか、この辺を今後何回かに分けてお話ししよう。

 今回は,弁護士報酬が「高い理由」について分析する。

オーダーメイドだから。

 弁護士報酬が高く見える理由を一言で言えば,「オーダーメイドだから」だ。根本的にはこれに尽きる。

大量生産できない

 大量生産できる消費財であれば安くすることもできるが、弁護士の仕事は,普通、大量生産できない。訴訟事件や調停事件は、早くて半年、普通にやって一年以上かかる。この間、弁護士自ら法的なアイデアを考え出して方針を決め、訴訟書類を作成し、実際に裁判所に出向いて期日に出頭し、手間と時間をかける。そういうカスタムメイドの仕事をオーダーしたわけだから、安くするにも限界がある。

一回で終わらない

 訴訟・調停にしても,示談交渉にしても,弁護士の仕事の多くは一回で終わらない。提訴・申し立てしたら終わりではなく,内容証明一通書いたら終わりではなく,何らかの結論が出るまで継続的に仕事を続ける必要がある。申請して一回で終わるような仕事なら,ある程度決まった単価もつけられようが,半年なり一年なり終わりの果てもなく続く仕事となれば,やはりそれなりの報酬になってしまう。プロの職人を月単位・年単位で確保するわけだから,これは当然だろう。

10万円で訴訟を安請け合いは怪しい

 だから,例えば「訴訟手続を全部10万円で引き受けます!」という弁護士がいるとすれば,ちょっと怪しい。

 もっとも,サラ金に対する形式的な過払い返還訴訟だとか,相手の欠席が予想されて勝訴確実な簡単な訴訟だとか,法テラスから低額な報酬を押しつけられたとか,同じ依頼者から頻繁に依頼を受けるのでバルクセール的な値引きをしているとか,10万円程度で受任することも例外的にはある。しかし,およそ訴訟事件を常に5万円とか10万円とかの弁護士報酬で一切合切引き受けますという弁護士がいるとしたら,それはよほど事件依頼がなくて困っている弁護士か(暇な弁護士か),まだ駆け出しでOJTで勉強させてもらう趣旨で依頼を受けようとしている経験不足の弁護士か,弁護士報酬には全く期待していないお金持ちのボランティア弁護士か(そんな弁護士は殆ど聞いたことがないが),そのあたりだろう。安すぎる弁護士報酬は,弁護士の実力に問題がないか手抜きをされないか,その辺が心配だ。

 やはり訴訟事件や調停事件であれば,どんな弁護士に依頼をしても,最低,数十万円からの弁護士費用はかかると思って頂く必要がある。弁護士を,その事件のために何ヶ月何年単位で拘束するわけだから,やむをえない。

旧報酬規定にとらわれているから。

 さて,最低限でもそれなりの弁護士報酬が必要であることはわかっても,じゃあ,天井はどうなのか。弁護士報酬は,ピンからキリまでという感覚ではないかと思う。さすがに10万円で難しい訴訟事件を依頼することができないことがわかっても,同じ事件について見積もりを出してもらうと,ある事務所は50万円と言い,ある事務所は100万円と言い,ある事務所は300万円という。なぜこのように差が出てくるのだろうか。

日弁連「弁護士報酬規定」による割合的報酬請求

 その原因の一つが,かつて存在した「日本弁護士連合会 報酬等基準」だ。

 今この報酬規定は廃止されているので(平成16年廃止),弁護士毎に適切な報酬基準を確立することになっているが,かつてはこの報酬規定に基づいて請求すべきものとされた。今でも,この規定に準じて報酬請求している弁護士は結構多い。

 この報酬規定の基準が,「経済的利益に応じた割合的請求」なのだ。つまり,請求する額または請求されている額に対する何パーセントという割合で報酬を請求するやり方(割合的報酬)だ。

 例えば,300万円の貸金請求訴訟をする場合には,着手金が300万円の8%として24万円,報酬金が300万円の16%として48万円,合計72万円になる。

 一方,3000万円の貸金請求訴訟をする場合には,着手金が3000万円の5%+9万円として159万円,報酬金が3000万円の10%+18万円として318万円,合計477万円になる。

 300万円の貸金請求訴訟で弁護士報酬が都合72万円というのは,まあそんなもんかなと思うが(借用書など証拠が揃っている簡単な事案でなければ,ちょっと安めかなとの感覚もあるが),3000万円の損害賠償請求訴訟で一律477万円という額は,個人的には,相当高いという感覚だ。困難な争点があって何年もかかる大裁判であればともかく,借用書など証拠が揃っていて,訴えを起こせば勝てる事案で,たまたま訴額が3000万円だったから弁護士費用はハイ477万円です,というのは,僕に言わせればボッタクリだ。実際,弁護士報酬規定が生きていた当時でも,多くの弁護士がそのような感覚を持っており,任意に減額することが多かったと思う。報酬規定は,その額を「取らなくてはならない」ものではないからだ。

 しかし,「弁護士報酬規定がこうなってます」と説明されてしまえば,高いなあとは思っていても,仕方がないと思ってしまう人が多いだろう。

割合的報酬請求の不合理さ

 報酬請求については,後日改めて私の考え方を述べるが,専ら経済的割合だけで報酬請求をすると,不合理なことが多いと思う。300万円の訴訟をするのも,3000万円の訴訟をするのも,書類上ゼロが一つ少ないか多いかという違いだけで,弁護士にかかる負担は同じだ。300万円の訴訟だと簡単で3000万円だと難しいということは,普通考えられない。訴訟の難易度は,請求額の多寡にかかっているわけではなく,証拠の有無だとか法的構成の難易度だとか,そういう争点にある。

 また,こちらが訴えられた場合,明らかに難癖を付けられた不当訴訟で,最初から勝訴の見通しがある事案でも,相手から1億円を請求されたなら,それに応じた弁護士費用を払わなくてはならないのだろうか。参考までに旧規定で1億円の訴訟に勝つとして,着手金が369万円,報酬金が738万円,都合なんと1107万円である。半額にディスカウントしてやるとか恩着せがましく言われても500万円以上である。相手からの難癖はかわせても,結局,その分,弁護士に高い金を払うことになる。馬鹿らしい。

 したがって,請求額に比例して弁護士報酬が当然に上がっていくという考え方は,僕は間違っていると思う。弁護士報酬は,請求額に応じて増減する形式ではなく,弁護士に実際にかかる手間に応じて精算されるべきだ。

無駄なチャージを付けられている。

 請求額だけで弁護士報酬を計算すると高すぎることがあってナンセンスだとすると,時給(タイムチャージ)で実働に応じた計算をするのが合理的ではないかという発想が出てくる。確かに一理ある。

 一般的な傾向として,弁護士一名から数名程度の町の多くの法律事務所の弁護士は,タイムチャージではなく旧報酬規定に準じた割合的報酬体系であることが多く,弁護士数十名から数百名の企業相手の法律事務所の弁護士はタイムチャージをベースに弁護士報酬を請求することが多いという個人的印象だ。

タイムチャージの問題点

 しかし,タイムチャージは,(1)弁護士による自己申告なので,正しい時間計算がされているか依頼者が検証できないこと(水増しの可能性があること),(2)計算の基礎となる時給自体に相場がなく,時給最低5000円くらいは必要だろうという感覚はあっても,時給の天井がない以上,結局経済的利益の割合で計算するのと大差ない不合理性が残ること(私は時給10万円の弁護士ですと言われたら,10万円の相当性については検証しようがなく,あっという間に弁護士費用は数百万円に達してしまう),(3)経済的利益による割合計算ならまだ上限があるが,タイムチャージだと青天井となり,弁護士報酬が際限なくなること(訴訟が長引くほど弁護士が儲かること),といった問題点が指摘できる。

 例えば訴訟事件の書面一通書くにしても,(1)依頼者との面談などに数時間,(2)書面起案前の準備・調査などに数時間,(3)実際の起案に数時間(何十頁も書くとすれば10時間以上),(4)清書して依頼者に確認してもらうなどのやりとりに1時間,都合10時間以上はかかるだろう。時給2万円の弁護士であっても,書面1通書いただけで20万円以上だ。時給2万円のタイムチャージとは,大手事務所の駆け出し弁護士でもそれくらい取るのではないだろうか。しかも訴訟は1通の書面で終わらないから,これを数回繰り返していると,簡単な裁判でもすぐ100万円超となる。

タイムチャージを増やす,ぼったくりマジック

 このタイムチャージをわざと増やすマジックがある。

 実際に私も,おそらくタイムチャージ制と思われる事務所を相手にした訴訟で,しばしば経験するのだが,それは(1)書面の分量がやたらと多い,(2)訴訟期日にぞろぞろと何人も弁護士が出頭する,こんなテクニックだ。

 書面のページ数を多くすると,素人目にはいろいろ凄い主張を繰り出しているように見えるから,こんなに起案時間をかけましたというアピールをしやすい。しかし,我々から見ると,同じことを繰り返し書いているだけで,50頁の書面であっても,だいたい5頁以内にまとめられるなあと感じることが多い。裁判官も,書面は簡潔に書いてください,特殊事情がない限り,ページ数が多い書面は歓迎できませんと公言している。訴訟は,一通の書面を書いて終わるものではなく,原告と被告とが交互に主張立証を繰り返して争点整理してゆくので,書面のページ数で稼ぐのではなく,簡潔な書面を往復させる方が無駄がない。普通はそのようにやってゆくので,一通の書面が何十頁にもなることは殆どなく,長くても10数頁くらいまでに収まる。たいした裁判でもないのに,毎回何十頁もの準備書面を出してくる大手事務所があるが,もしこれがタイムチャージに反映しているなら,クライアント企業は無駄金を使ってるなあと気の毒に思う。

 それから,期日にぞろぞろと弁護士が出てくるのも,もし人数分のタイムチャージを請求しているとすれば,ぼったくりだ。訴訟事件を複数の弁護士で担当するのはよくあることで,これは問題ない(それでも主任は一人だ)。そして依頼者との打ち合わせに複数の弁護士が立ち会うのも構わない。ただ,複数の弁護士で担当すると言っても,せいぜい2〜3人までだろう。裁判所だって,地方裁判所では殆どの事件が裁判官1名,例外的に裁判官3名で処理する。高等裁判所も原則として裁判官3名だ。つまり,どんな訴訟事件でも,弁護士は普通1名いれば十分で,難事件・大事件でも3名より多くは要らないでしょうということだ。それが,4名も5名も事件に関与させて,その人数分のチャージを取っているとすれば,ぼったくりと言わざるをえない。だいたい末端の数名は若手弁護士の研修OJTだろう。そんなものを依頼者の金でまかなわれたらたまったものではない。

 まして書面を提出して次回期日を決めたら終わりが予想されるような簡単な期日に,担当だと言うことで弁護士がぞろぞろついてくるのも,その人数分のチャージを付けているとしたら,無駄としか言いようがない。証人尋問だとか重要な場面以外では,期日は主担当弁護士が一人で行けばよい。複数で行ってもいいけれども,つけるチャージは一人分にすべきだ。

結局,決定的な弁護士報酬基準は存在しない

 このように,経済的利益に応じた割合的報酬にしても,タイムチャージにしても,払う側からすると,納得のいかない問題がありうる。

 じゃあ,お前はどうなんだというと,私は,事件難度毎の固定報酬を決めている。10万円の請求でも1億円の請求でも,事件難度が同じなら弁護士報酬は定額。証拠が揃っていて,提訴すればまあすぐに勝てるだろうという簡単な事件は幾ら,普通の事件は幾ら,難しい類型の事件は幾ら,という松竹梅の3分類だ。これに,裁判所に出頭した場合の日当をタイムチャージ的に別につけたりする。

 しかし私のこの決め方にしても,「すぐ勝てる」とか「普通」とか「難しい」とか,多分に感覚的な問題であって,依頼者が完全に納得できるものではないだろう。難しいと言われれば,そんなもんかと思って頂くしかない。しかし,簡単と思って安く引き受けたら,何年もかかってしまって私が大損する場合もあり,事件の依頼を受ける段階でははっきりした見通しがつけられない。我々は大工のように結果を保証する請負業者ではなく,手続に万全の対応を尽くす代理人・受任者という立場だ。結果は保証できないものの,結果に向けた手段にプロとしての腕を振るう立場なので,プロセスがどのように展開するか未定の段階で,完璧な見積もりが出せないのはやむをえない。これは,ご容赦頂くほかない。

 今回のブログで,割合的報酬が高すぎるの,タイムチャージがぼったくりだの,いろいろ批判をしたものの,私自身の報酬からして未だ試行錯誤中であり(現行は特売セールすぎる気がしてきたので,値上げすべきかどうか検討しようかw),弁護士の報酬問題はなかなかこれといった決定版はないという状況だ。

 しかし,オーダーメイドである以上,安すぎるはずがないこと(安いのは何かあると思った方がいいこと),高すぎると思ったら,依頼時に,なぜその額になるのかよく質問してはっきり答えてもらうこと,そしてその説明に納得がいかなければ,別の弁護士からも相見積もりを取ってみること,この辺を心がけたらいいだろう。

つづく

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