弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

東京五輪汚職事件について想う/昭和的経営の落とし穴

 東京五輪汚職疑惑

このところ連日、東京五輪汚職疑惑事件が報道されている。逮捕されたり参考人として事情を聴かれている人たちは、ことごとく60代、70代の経営者だ。

なぜ高齢の経営者たちが次々芋づる式に摘発されているのか。それは、昭和感覚で脇の甘い経営を漫然と続けていたからではないか。ある経営者は、何が問題なのかわからない、自分は昔から正しい経営をしてきたつもりだと報道陣にコメントした。問題の所在がわからないというこのコメントこそ、本件の根本原因を示唆するものだと感じた。

 昔なら例えば・・・

例えばインサイダー取引。

昭和のころまでは、これで大いに儲けた人たちがいた。昔もインサイダー取引は正しいものではなかったが、早耳情報で株取引することの何が悪い、それが株取引というものだという感覚が支配的だったと思う。ところが、平成を経て、インサイダー取引は株式市場を食い物にする不公正取引であることが認識されて、今ではやってはいけないことという意識が浸透した。それでも相変わらずインサイダー取引で摘発されるものが居る。

同じく例えばセクハラ。

昭和のころまでは、宴会で女子社員に酌婦をさせて侍らせ、女子社員に好色の目を向けて我慢を強いる場合があった。それで女子社員が文句を言おうものなら、これだから女はダメなんだ、女は家にいるべきなんだと誹られた。今ではすっかりこんな宴会はなくなったものと信じたいが、それでもセクハラ事案があとを絶たない。

さらに同じく例えば煙草。

昭和のころまでは、会議が始まる前には、"女の子"と蔑称された女子社員たちが、テーブルの上に灰皿を配っていた。弁護士会の会議でも、平成7年ころまで存在した旧弁護士会館のころはそうだった。今では会議で煙草を吸うなど考えられないが、街中では歩き煙草をしている者が相変わらず居たりする。

このように昭和のころには黙認されていた事象や悪習が、平成を経て令和の今となっては許されないこととして、はっきり周知徹底されるようになった。昭和のころでも、黙認されていただけで、決して自慢できることではなかったはずだ。もともと黙認されていたものが、現在は民度が上がって、はっきり悪いこととして認識されるようになったわけだ。

それでもまだ、インサイダー取引やセクハラや喫煙マナーの悪い者が残っている。時代に置いて行かれた人たちだ。

 古い意識での経営・脇の甘さ

そうすると今回の問題。

まだ捜査中であるし、報道内容が正確とは限らないので、この件が本当に汚職事件なのかどうか、彼らが悪いのかどうかは今後行われるはずの刑事裁判の結果を待つほかない。しかし、火のないところに煙は立たない。問題とされうる取引があったことは間違いなさそうであり、問題の渦中に巻き込まれてしまったのは、脇の甘い経営をしたとしか言いようがない。

要するに、東京五輪に一枚噛むために、第三者に何らかの金を払ったことの是非が問われている問題だ。

これは昔であれば、よくあることだったと思う。

今でも民間のイベントでは広告代理店などコンサルタントを巡ってこのような口利き料やキックバックが流れることはありそうだ。もちろんそのために過大請求をしたり架空経費を計上したりしていれば違法行為だ。もっとも、民間イベントなら関係者全員が暗黙にも了解していれば問題にならないことが多い(それでも脱税などの問題が生じる)。

しかし、五輪は民間イベントではなく一種の公共事業だ。公共事業に一枚噛むために、有効そうな相手にお金を流すことがいいことなのか悪いことなのか、この辺はお金を渡す前にちょっと考えれば問題意識が出てきそうだ。人脈を使う経営が悪いとは言わないが、相手の才能や能力を知って地道に築き上げた人脈を使うではなく、仲間内で金をシェアすることだけで一朝一夕に結びついた人脈は、現代世論が嫌う拝金主義として誹られかねない。

だから、何が問題なのかわからないとコメントする経営者は、現代的な経営感覚に自分をバージョンアップできていないにほかならない。問題意識がないことこそが問題なのだ。

捕まった人たちが高齢の経営者、したがってまた会社における重役たちが多いわけだが、これも、若い人たちならやらない・できないことを重役たちが勝手にやってしまったためかもしれない。彼らにしてみれば、やはりイマドキの若い者たちに任せていて駄目だ、俺らが人脈を使って口利きをしたからこそ会社の利益が上がるのだと得意気になっていたのかもしれないが、それは昭和の古い気質で危険な取引をしただけだ。若い人たちからすれば、危なっかしい目で見られていたのではないだろうか。

 古い経営者はどうしたらいいのか

では、古い感覚の経営者はどうしたらいいのだろうか。

先ずは自分の経営感覚は古いのではないかという疑問を持つことだろう。疑問を持たない独善経営・俺様経営は論外だ。今回のような事件に巻き込まれるリスクがある。

そして自分の発想への疑問は、若い社員や部下にぶつけてみるのがいいだろう。若い社員をイマドキの若い者として批判するのは間違っている。古代エジプト時代からイマドキの若い者は常に存在したし、自分自身かつてはイマドキの若い者だったわけだ。それでも歴史は発展している。むしろ危険なのは、イマドキの若い者ではなく、イニシエの老いたる者であろう。

また、疑問をぶつけるために、社外の専門家にすぐアクセスできる環境整備も重要だ。例えば、なんだかわからないが法律問題が生じるかもしれないと思えば弁護士に訊いてみる。数字のことはわからないが財務会計問題が生じるかもしれないと思えば公認会計士や税理士に尋ねてみる。こういう社外の専門家人脈の醸成こそ重要だろう。

もっとも今はネット社会であり、ネット検索すれば色々な答えが落ちている。専門家など不要で、ネット検索技術でどうにでもなると思う向きもいようが、ネット情報は玉石混淆、いやむしろガレ石が多い。不正確なネット情報に惑わされるよりも、身近に弁護士や税理士などちゃんと経験を積んだ専門家人脈を形成しておくこと、そして気軽に意見を求めること、これこそ必要だろう。

 

結局のところ、自分が老いていることを自覚して、フレッシュな意見や情報を追い求めながら、自分の感覚や成功体験に対しても常に疑問を持ちながら経営する。これこそが、時代に置いて行かれないようにするために、イマドキ大切なことだと思う。

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