弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

裁判に勝つためには(6)・・・弁護士の頼み時・2

 さて弁護士の頼み時・第2回である。前回は、法的手続、特に裁判を利用する場合には、できれば弁護士を依頼したほうがいいという当たり前の原則をお話しした。今日は、法的手続をとる前に話し合いをする場合(=示談交渉)、弁護士を依頼した方がいいかどうかお話ししよう。

示談交渉とは

 トラブルが発生した場合に、当事者間で話し合いをすること、これを示談交渉という。普通に日常用語として使う言葉だと思う。話し合いだから、当事者の思いを常識的に会話すればよく、本来はここに弁護士を登場させる必要はない。ただ、トラブルが法的問題だった場合、法律を知っている弁護士を入れた方がスムーズに解決しやすいこともあるし、トラブルの相手方が普通でなかった場合、法的手続で即座に対抗できる弁護士を入れた方が安全確実だったりする。

最初から弁護士を頼むかどうか

 しかし、弁護士が入ると話し合いに角が立つということも考えておくべきだ。弁護士は別に喧嘩屋ではなく、本人の代理人に過ぎないが、相手に弁護士が就いただけで険悪ムードになることがよくある。「お、そう来るんだな、お前、そんなことするんだな、いいよ、わかったよ」と。まあ、弁護士の私からしても、相手のこういうイラっと感はわからないでもない。かくして、起こらなくてもいい争いが炎上することもある。

 だから、いきなり最初から弁護士を登場させて交渉に臨むかどうかは、状況と相手次第で考えてみるのがいい。

先ず当事者で話し合いできる場合

 例えば家族間の問題。離婚だとか相続だとか。こういう問題は、言われるまでもなく、当事者間でまず一度は話し合いするのが普通だろう。離婚したいというのに、当人同士まったく話題にしないまま、いきなり弁護士から離婚を通知されても青天の霹靂でびっくりするだけだ。とはいえ、夫のDVに悩まされている妻だったりしたら、離婚を切り出したら再び一発殴られるのが落ちなので、これは最初から弁護士が登場するのがよさそうだ。

 例えば近隣問題。お隣からの騒音がうるさいとか、私道を通行できないとか、越境しているとか、こういう問題もまず一度は当事者で話し合いの場を持つのが普通だと思う。ただ、最初に話し合いをするまでのところで、言う側はすでに相当我慢していただろうし、言われる側は加害認識がなくて突然のクレームを理解しにくいだろう。このお互いの認識の温度差から、最初の話し合いの段階から一歩間違うと険悪ムードになったりする。そして十年戦争化する。だから、弁護士をいきなり頼まないにせよ、法的に請求できるのはどこまでか、どんな交渉の仕方をしたらいいのか、そんな予備知識を持ちながら最初の話し合いに臨むかどうかで、険悪リスクはだいぶ回避しやすくなるのではないかと思う。

 このように、いきなり弁護士を入れずに当事者間で一回くらいは話をしてみるのが普通だろうが、最初から弁護士を入れた方がいい場合もありうる。結局、自分自身の感覚も踏まえた上でのケースバイケースだ。

最初から弁護士を頼むべき場合

 ただし、絶対に最初から弁護士を頼んだ方がいい場合ははっきりしている。

 例えば、暴力団との交渉。暴力団から脅されそうだという場合には、これはもう最初から弁護士を頼んだ方がいい。もちろん、警察に相談して効果的なことも多いが、交通事故だとか借金だとか、見かけ上、私的な紛争のような事案。こういった場合だと、警察は民事不介入ということで動いてくれないこともある。だから弁護士に最初から交渉の前面に立ってもらう。弁護士なら誰でも暴力団対応の経験値豊富とは限らないが、弁護士会は、民事介入暴力対策に力を入れていて、経験値の高い弁護士がたくさんいる。だから対応できる弁護士が見つからないことはないので、ともかく最初から弁護士をつける方向で動くのがいい。決して、自分1人で暴力団と話し合いをしてはいけない。もちろん自分の味方として利用してもいけない。

 これと似たケースにヤミ金もある。ヤミ金も最初から経験値の高い弁護士に交渉してもらうと解決が早い。暴力団とかヤミ金とか・・・あとはわかるな?

 このように、交渉相手が一筋縄ではいかなそうだぞという気配がする場合、素朴に怖い場合、こういうケースでは最初から弁護士を依頼することを考えた方がいい。暴力団やヤミ金だけでなく、DV亭主との交渉だとか、精神的におかしい気配がする相手との交渉だ。こういう相手だと、弁護士を頼んだらますます脅されるのではないか、ますます酷いことになるのではないかと思ってしまいがちだが、そんなことはない。経験ある弁護士が毅然と交渉をすれば、自分で怯えながら弱腰の交渉をするよりも、正しい解決が導かれる。なお、弁護士は交渉のプロ以前に法的手続のプロだ。不正義な相手に毅然と交渉しても通用しないとなれば、躊躇なく法的手続をとって依頼者の正当な権利を護ることになる。日本国の法律を駆使する立場にあるのが弁護士だから、余計な心配をせず大いに頼ってもらっていいと思う。

弁護士には弁護士を対決させる

 ところで、相手方に既に弁護士が就いている場合。こちらも弁護士を依頼した方がいいことが多い。時々、弁護士相手に孤軍奮闘して頑張ってしまうご本人がいる。いろいろな落とし穴にはまりそうで、敵ながら見ていてハラハラするので(それはそれで後日鬱陶しいので)、こちらから、あなたも弁護士を就けた方がいいですよと示唆することがある。それでも、何が悔しいのか頑として弁護士を依頼しない。そして案の定、落とし穴にはまったりする。もちろん、我々弁護士はフェアに交渉することを心がけているけれども(相手を騙したり不正義な交渉はしないのが我々弁護士の倫理だ)、そこに落とし穴がありますよといちいち忠告しない。弁護士が落とし穴を掘らなくても、法律や判例の無知という天然の落とし穴がたくさんある。忠告していたらキリがない。それにそんなことに気を遣っていたら誰の代理人だかわからなくなる。だから、相手方の動きを見ていて、ああ、穴に落ちちゃったなあと思うこともある。それが本当にまずい感じであれば、大切なところなので専門家と相談して十分検討してくださいねくらいは言うことがあるけれども、それ以上に、相手の不利益がどうであるか、どう回避したらいいかまで丁寧に解説はできない。それこそ自分の依頼者に対する背信だ。弁護士は、自分の依頼者の利益の代弁者であって仲裁者ではない。

 そこで、相手方に弁護士が就いていたら、こちらも弁護士を就けるなり、せめて法律相談に行くなり、そうやって自分が落とし穴にはまらないように予防すべきだ。我々弁護士としても、素人さんから、法的に通りそうもない訳のわからない主張を延々と聞かされるよりも、弁護士を頼んでもらって、その弁護士から法的に整理された主張をしていただく方が有り難いし、早期円満解決に資するはずだ。

 ちなみに話が横道にそれるが、相手方に弁護士が就くのを妨げようとする弁護士、これはあまりいい弁護士ではない感じがする。普通の弁護士の感覚としては、素人相手に話をするより、弁護士同士の話し合いになった方が、争点が整理されて無駄な議論をしなくて済むし、相手本人が落とし穴にはまりそうだとか余計なハンディキャップを気遣わなくて済む。そういう意味で、交渉の相手方に弁護士が就くことは、たいてい歓迎できることだ。これを忌々しく思って相手方本人と交渉したがる弁護士は、相手方が素人で無知なのをいいことに、たぶらかそうと思っている可能性がある。依頼者からすれば、相手をたぶらかしてでも結果を出そうとする弁護士は、ある意味頼もしく見えるかもしれないが、明日は我が身だと思った方がいい。依頼者であるあなた自身もたぶらかされるかもしれない、ということだ。また、相手を騙して解決しても、その相手が騙されたと気づいたときに、別の新たな問題が生ずる可能性がある。一回で済む問題が、二度繰り返される(そしてその弁護士は費用を稼げてウハウハかも)ことになりかねない。

いずれにせよ交渉前には弁護士に相談

 以上のとおり、不正義な相手だったり、相手に弁護士がついている場合には、こちらも弁護士を頼んで話し合いに臨むのがいい。そういう場合でなければ、ケースバイケースで決めることになる。

 仮に弁護士を依頼せず、自分自身で先ず話し合いに臨んでみるとしても、法的な予備知識を持って話すと話さないとでは大分違うはずだ。このため、依頼するかどうかは別として、交渉前には一度弁護士に相談してみる。これが結果として、無駄な時間とコストと精神的労力をかけずに交渉を成功させる第一歩ではないかと思う。もちろん、この相談の中で、弁護士をつけるタイミングをアドバイスしてもらう(これには弁護士側の営業トークもあると思って受け止めるのがよい。)。

 では、どの弁護士に相談したらいいか。これは、本ブログ連載中のエントリー「弁護士の選び方」をご覧頂きたい。

次回予告

 次回は、弁護士に相談せず「Google先生」に教えてもらいながら(我流でネット情報を検索しながら)示談交渉することの危なっかしさについて語る予定だ。

(つづく)

バックナンバー

 裁判に勝つためには(1)・・・証拠が大切

 裁判に勝つためには(2)・・・事実認定とは

 裁判に勝つためには(3)・・・書証と人証

 裁判に勝つためには(4)・・・三審制について

 裁判に勝つためには(5)・・・弁護士の頼み時・1

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