弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

僕が法廷ドラマを見ない理由

 今日は少し雑談をしよう。テレビや映画の法廷ドラマ・法曹モノの話だ。

見たことのある法廷ドラマ

 僕はテレビや映画の法廷ドラマ・法曹モノを殆ど見ない。

 これまでまともに見たことがあるのは、高嶋政伸さん(弟の方)が主演した「都会の森」と、織田裕二さんが主演した「正義は勝つ」、あと豊川悦司さんが主演した「弁護士のくず」、いずれも弁護士が主役のドラマ。片岡鶴太郎さんが家庭裁判所の裁判官役で主演した「家栽の人」。それから痴漢冤罪事件を扱った周防正行監督の映画「それでもボクはやってない」。この5つくらいだ。

 ・・・あ、結構見てる。

法廷ドラマって背中かゆくなる

 法廷ドラマってたくさんあるから、5つなら少ない方だとご容赦頂きたい。法廷ドラマに限らず、医師とか刑事とか、こういう専門職モノって頻繁にドラマの題材になっている。しかし、本職から見ると、もうむずむずするものが多い。これが、滅茶苦茶でどこのパラレルワールドの話だろうかという冗談ドラマならまだマシなんだが(「HERO」がその最たるもの。「正義は勝つ」もこっち系)、本格志向っぽく演出しているつもりで微妙なところが多々間違っているというのが、一番ヤバイ。背中かゆくなる。

 じゃあ背中かゆくなる原因はどこにあるのか。もちろんドラマだから、フィクション部分があって構わないわけだが、ストーリー的フィクションではなく、司法制度そのものに対するフィクションあるいは誤解描写が多々あると、気になって気になって、ストーリーに全く集中できなくなってしまう。テレビに向かって「んなわけねーよ」とか「はあ?」とか「ケッ!」とか汚く野次を飛ばす一人のむさ苦しいオヤジに成り果てるのだ。成り果てたくはない。だから見ない。

例えば、法廷シーン

 法廷シーンでどんなところが気になるか。

 よく気になるのは、木槌。裁判官が机をドンドンと叩いて静粛に!ってやるアレだ。あんなものは日本の法廷には無い。まあ、木槌が出てくるのは異世界を舞台にした荒唐無稽系に多いから、お笑いシーンだと思えばまだ許せる。

 しかし実際と微妙に違うシーンが一番気になる。例えば、弁護士が傍聴席に向かって演説するシーン。確かに、法廷で発言することはあるわけだが、それは裁判官に対してであり、傍聴席に向かって説き聞かせることはない。発言するにしても、ここでとんでもない事実をお知らせしましょう何と真犯人は傍聴席にいるんですそれはキミだ!的な演説シーンもありえない。実際、法廷で弁護士が長々と発言すること自体が少ない。

 民事訴訟と来た日には、あれこれ口頭で言おうものなら、裁判官から「書面で出して頂けますか」と言われたりしてしまうくらいで、それが本来的な民事訴訟のあるべき姿かどうかという議論はさておき、実際の民事法廷は静かな流れ作業だ。

 あと証人尋問で、真実を種明かしするような場面。これも気になる。証人尋問は、ドラマの演出上、証人の嘘をその場で暴き出して降参させるような、そういう場面として描かれていることが多い。例えば、

 弁護士「あなたはそこで被告人を見たわけですか」

 証人「はい確かに見ました」

 弁護士「その時被告人は、別の場所にいたんですよ。あなたは嘘を言っている!」

 証人 <ぎょぎょ!?>

 弁護士「真実は、あなたが犯人ですねっ!」ダダーン!☆m9( ゚д゚)っ 

 裁判官 (大きくうなずく)

 みたいな。・・・もう、ぼく、気失っちゃいますから。

 法廷って謎解きをしたり、相手を追い詰める場ではないので、そこんとこよろしくお願いします。実際どんな場なのかはまた稿を改めてブログを書きたいと思う。

例えば、追跡シーン

 弁護士が、刑事さながら犯人を追跡したり、現場で証拠を集めたりするシーンがある。もちろん、裁判は証拠が全てで、現場も重要な証拠だが、弁護士自身が歩き回って証拠を集めたり、そういうことを常にやっているわけではない。自分の眼で見ることは大事だが、やみくもに歩き回って聞き込みをすれば証拠が集まるとは限らない。実際、売掛金の請求だとか、慰謝料請求だとか、「現場」のある事件ばかりではない。

 そもそも、弁護士の調査能力は極めて限定的だ。弁護士は何か特別な権限や調査能力があると思われがちだが、一般市民に毛が生えた程度だ。例えば事件処理に必要な限度で戸籍謄本などを取得することができるが、その程度だ。だから、弁護士が現場を無闇に歩き回っていても、依頼者に対するタイムチャージ(=日当旅費)がかさむだけのことで、あまりいいことはない。このため、必要に応じて現場の調査をするか、或いはコストとの見合いで依頼者にお願いして作業してもらうか、そんな感じになる。

 まして、犯人を断崖絶壁に追い詰めて指弾するなんてこと、するはずありません。あしからず。

例えば、不正確な用語

 マスコミ用語もそうなんだが、法律用語が不正確なのも背中がかゆくなる。

 弁護士役の俳優が、刑事訴訟の法廷で「被告を拘置するのは相当でないと考えます」とか、「証人喚問を要求します」とか、もう殺意に近いイラっとレベルだ。マスコミ報道はどうやら確信犯か司法記者の勉強不足だから、付ける薬もなさそうに思い始めた今日このごろだが、せめてドラマは本物志向で詰めていただきたい。

 また、間違っているわけでもないんだが、あんまりそうは言わないよっていうのもある。例えばクライアントや依頼者のことをドラマの中では「依頼人」と言ったりしているが、依頼人という言葉を使う弁護士は多くない気がする(※日弁連の弁護士職務基本規程でも「依頼者」という用語である。)。「弁護を依頼する」っていうのも、刑事事件で弁護人を頼むことであって、民事事件では使わない。民事事件は弁護人ではなく「代理人」だ。

 証人尋問期日で、勢いよく立ち上がって「異議ありっ!☆」って大見得切って言うのも、これも間違いじゃないんだが、「ありっ!☆」の部分がちょいと芝居がかっていて気になる。実際は、手を挙げて素早く立ち上がって「異議!」と言うか、落ち着いて「異議があります」と発問をすかさず制止しつつおもむろに立ち上がるか、あとは「あ、すみません、今の異議です」と素朴に言うか(←ちょっと格好悪いw)、そんなところじゃないだろうか。

じゃあ、本物志向の法廷モノは?

 現時点で、法曹が見るに堪えられる法廷ドラマは、私が知る限り「それでもボクはやってない」これが圧巻だろう。もちろん映画だから、誇張してあったり、微妙に違ったりする部分もあるわけだが、でも全体として本物だ。本物過ぎて、見ていてくたびれる。見終わった感想は、なんで休日に仕事気分味わわなきゃいいけないの、もうぐったりorz、だ。

 テレビドラマでは、「弁護士のくず」が、比較的ストレスなく描かれていた。弁護士の描き方としては破天荒ではあるけれども、法廷ドラマの題材は刑事事件が多い中、このドラマは民事事件を題材にしていたので、なかなか面白く見られたんじゃないかとも思う。それから未だ見たことがないが、「ジャッジ 島の裁判官 奮闘記」、これも相当お勧めだと知人の弁護士から聞いた。追加情報として参考まで。

 いずれにせよ、本物志向の法廷ドラマは、本職として見ていて共感できるものの、結果として自分だったらどうするかとか、自分でも同じことになりそうだよなあとか、それはそれで考えすぎてしまってくたびれるには違いない。

 だから僕は、法廷ドラマは見ないことにしている。・・・つもりだ。

 

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