弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

弁護士の選び方(12)・・・初回相談時のチェックポイント・2

 前回に引き続き、弁護士事務所に初めて行った際のチェックポイントについて語ってみる。これから依頼するかどうか検討中の段階で、弁護士や事務所の様子をチェックすることは大切だ。弁護士への依頼は高い買い物だから、十分吟味して失敗のないようにしたい。

第一印象と説明のわかりやすさ

 前回、お話したことだが、やはりこれが一番大事だと思うので、もう一度言う。

 ひととおり相談を終えた後の「弁護士の第一印象」、それから回答と報酬の「説明のわかりやすさ」、この二つはとても大切だ。再度、このブログ連載「弁護士の選び方(11)初回相談時のチェックポイント・1」をお読み頂きたい。

事務スタッフが主役ではないか

 初回相談なのに、弁護士はちょっと挨拶する程度で引き上げてしまって、あとは全部弁護士ではない事務スタッフが進めている事務所。これは、怪しげなNPO法人だとか事件屋のたぐいに紹介されて行った弁護士事務所に多そうだ。あとは、所属弁護士数が少ないのに、やけに広告宣伝して大量集客している事務所の中にもありそう。

 しかしこういう事務所は考えものだ。弁護士が依頼者に応じて実働しているのではなく、スタッフにマニュアルを渡して(or レクチャーして)、そこに書いてあるとおりに大量生産仕事をさせているだけのことだ。本来、法律事務は個別の事情に応じた受注生産で大量生産できないのが原則だから(このため弁護士費用は高くなる)、画一的なマニュアルで無資格者が仕事をしていたら、必ずどこかで失敗する。

 もちろん、特定の分野では、事務スタッフがある程度活躍できることも間違いない。このように弁護士の補助をしてくれる経験値の高いスタッフを「パラリーガル」と称して、弁護士と共働することもある。私自身、日弁連法務研究財団でパラリーガル研究(研究テーマ;「我が国の法律事務所におけるパラリーガルの育成と有効活用について」)をしていたので、事務スタッフとのハイレベルな共働とその効果については大いに理解している。

 しかし、はじめから事務スタッフが殆ど全部やっているのは論外だ。いかなるジャンルの相談であろうと、少なくとも初回の相談は弁護士自身が最初から最後まで全部担当すべきだ。隣にスタッフを座らせておくのは問題ないが、話をするのは弁護士。それも最初の形ばかりの5分、10分ではなく、少なくとも30分以上、できれば1時間。弁護士がじっくり最初の法律相談を受けているかどうか、これがチェックポイントだ。初回法律相談は1時間くらい時間をとらなくては、的確なアドバイスはしにくいというのが私の持論でもある。

 この点、例えば借金整理や過払金の回収など、借金問題は弁護士でなくとも事務スタッフがちゃんとやれば問題ないと言う人がいそうだが、それは間違っている。ありふれた借金問題のように見えて、実は特殊事情が潜んでいて、これに応じた特注対応でなければ失敗するというケースも中にはあるのだ。病気の治療と一緒で、ありふれた風邪だと思って薬を処方していたら、実は癌だったということがあるのだ。だから、看護助手ではダメで、看護師でもダメで、医師が自らじっくり診断する必要があるわけだ。

主担当弁護士は誰か

 弁護士が一人だけの事務所であれば、事件処理をする弁護士はその弁護士に決まっている。しかし弁護士が複数所属する事務所の場合、最初に面談をした弁護士がこの先も担当してくれるとは限らない。複数受任の際、中心的にその事件を担当する弁護士のことを主担当とか主任と呼ぶ。

 そこで、最初に好印象で説明もわかりやすかった弁護士が、この先も担当してくれるのかどうかは、依頼する前にちゃんと尋ねておこう。複数の弁護士が共同受任する場合でも、全員が万事合議して依頼を進めてゆくとは限らない。その中の一人の弁護士が主担当となって依頼を進めてゆくのがむしろ普通だから、主担当の弁護士が誰になるかは気にしていいだろう。

 もちろん、初回相談担当弁護士よりもその分野に経験値の高い弁護士が所内にいれば、その弁護士に主担当になってもらうこともあるだろうし、簡単な類型の事件なら若い弁護士のOJTとして主担当にさせることもあるだろう。職人の世界ならよくあることだ。だが、そうであれば、それが依頼者にも見えるようにしておくことが大事だろうと思う。

 だから、誰が担当するのか気になるならば、依頼する前に「この件は、先生が全部担当してくれるんですか、それともどなたか別の先生が主担当になりますか」と聞いてみたらいい。別の弁護士が主担当になるのが気になるようであれば、その弁護士とも一回話をさせてもらって印象を見てもかまわないだろう。こういう質問をして、歯切れが悪かったり、いやな顔をされた場合には、依頼するかどうか再吟味した方がいいかもしれない。

相談料を払ったら領収書をくれる

 当たり前のことだが、お金を受け取ったら領収書を出す。

 相談後にその場で現金を受け取ったら、言われなくとも領収書を出すのが普通だと思うが、領収書をくれと言ってもすぐ出てこない事務所は、この先も何かにつけて言わないとやってくれないかもしれない。もしかしたら、相談料程度は売り上げ除外するため(=脱税)、言われるまで領収書を出そうとしないのか、なんて穿った見方をしてしまう。

 初回相談時に、事件依頼後の弁護士の書類の作り方や事務所の対応をチェックすることは不可能だが、払った相談料に対するこんなチェックなら、一事が万事、先の見通しが立つかもしれない。

初回相談時に依頼を勧誘しない

 訪問販売じゃあるまいし、今日すぐ依頼させようとする弁護士は要注意だ。

 もちろん刑事被疑者で身柄拘束されているとか、会社が倒産しそうだとか、緊急性のある案件を、今日すぐにでも依頼してもらわないとダメだと言うのは仕方ない。むしろ、こういう案件に限って関係者の方がのんびりしていて、こっちが焦ってしまうこともある。当然、これは今すぐやりましょうと、私だって言う。

 しかしそれでも、本当に一刻を争うケースは、刑事事件で身柄拘束されているとか、明日不渡りが出るとか、まもなく請求権が時効消滅するとか、ごく限られる。医者と違って弁護士の扱う問題に急患は多くなく、急いでやるに越したことはないにしても、一刻一秒を争うほどの大至急事案ではない場合が殆どだ。

 そうであれば、初回相談時に、弁護士側から依頼を積極的に勧誘する必要は少ないはずだ。まして、今日今すぐ依頼してもらったら云々と、いっぺん帰って検討するいとまも与えないような言い方は、うさんくさい。そういう売り方は通販番組だけで十分だ。緊急性のないケースであれば、初回相談時には、せいぜい報酬説明をする程度だろう。

 例えば私の場合、最初から依頼するつもりで来ましたという人に対してでも、安い買い物じゃないんだからよく考えて決めた方がいいですよ、余所の弁護士にも相談してみましたか、今日決めずとも明日以降改めて依頼頂いてもいいんじゃないですかと言って、とりあえず初回相談時にはそのままお帰り頂くことが多い。有り難いことに、たいがい再び相談にいらっしゃって依頼して頂く運びになるのだが。

事務所の規模は関係ない

 ところで初回相談時に事務所の様子をチェックするとしても、弁護士数だとか、事務スタッフ数だとか、そいういう事務所規模は、そこに所属する弁護士の能力を反映しない。

 例えば日本でも弁護士を百名単位で擁するローファームが登場してきているが、そういう事務所は、海外取引だとか大企業法務だとか、主としてそういう分野を取り扱っている。だから、個人の離婚だとか相続だとか慰謝料請求だとか、そういう分野は主力として取り扱っていないはずだ。

 一方、弁護士一人・事務員一人or無しという「一人事務所」でも、特定の分野に対する経験値がもの凄く高い、知る人ぞ知る弁護士事務所だったりする。

 だから、所属弁護士の数や事務スタッフの数、まして事務所環境や事務所の豪華さは、弁護士の実力には比例しないと考えて良い。おそらく「商売のうまさ」には比例しているだろうけれど。

次回予告

 次回は、いよいよ弁護士報酬について語り始める。先ずは,弁護士報酬は「なぜ高いのか?」というところから。

 

(つづく)

バックナンバー

 弁護士の選び方(1)・・・広告(総論)

 弁護士の選び方(2)・・・ホームページ(総論)

 弁護士の選び方(3)・・・学歴

 弁護士の選び方(4)・・・経験年数

 弁護士の選び方(5)・・・専門分野

 弁護士の選び方(6)・・・テレビ出演する弁護士

 弁護士の選び方(7)・・・本を書く弁護士

 弁護士の選び方(8)・・・講演する弁護士

 弁護士の選び方(9)・・・弁護士会長とか

 弁護士の選び方(10)・・・ヤメ検・ヤメ判

 弁護士の選び方(11)・・・初回相談時のチェックポイント・1

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