時々、こんな相談を受けることがある。
「調停を無理矢理成立させられてしまったのですが、今からひっくり返せますか?」
僕も最初は真剣に取り合わなかった
これに対しては、ほぼ無理ですね、という残念な回答をするほかない。
実は、20年以上前、弁護士になりたてのころの私は、こういう相談をしてくる人に対して、内心、今さらそんなこと言うなよ、裁判所が無理矢理調停を成立させるはずがないじゃないかと思ったりしていた。何をいまさらと、真剣に取り合わなかった。実際に、後の祭りなので、真剣に取り合ったとて、どうしてあげようもなかったわけだが、それにしても内心そういう気持ちでいた。
しかし、実は違うのだ。特に、弁護士を手続代理人として依頼せず、本人独りで調停に臨んだ場合、本当に不本意な調停を成立させてしまうことがあるのだ。そういう流れに飲み込まれてしまうことが、とてもよくあるのだ。それはどうしてだろうか。
そこで先ず、調停とは何かを簡単に説明しておこう。
調停とは何か
調停とは裁判所で行う話し合いだ。法的手続だが、訴訟とは違う。訴訟、つまりいわゆる裁判は、裁判官が当事者の主張を聞き、その主張を支える証拠があるかどうかを見ながら、いずれの当事者の主張が正しいかを判断する手続だ。最後には判決などの形で、裁判官が白黒決着をつける。一方、調停は、裁判所で行われ、裁判官も関与するけれども、当事者の話し合いの仲立ちをするだけだ。話し合いが決裂した場合に、当然に裁判所が結論を出すわけではない。代表的な調停として、離婚や相続の話し合いをするための家事調停、そして、トラブル一般を話し合うための民事調停がある。
この調停で当事者の話し合いを仲立ちをするメンバーは、原則として調停委員2名と裁判官1名という構成で行われる。実際のところ裁判官は話し合いの節目に顔を出す程度で、常時同席せず、調停委員2名によって話し合いが進められることが多い。この調停委員は、例えば家事調停では年配の男女各1名ずつだったりする。
調停は6畳くらいの狭い部屋で行われ、傍聴人はいない非公開だ。テーブルを挟んで正面に調停委員が2名(裁判官や調査官が一緒に入ることもある)座っている。両当事者が同席して話し合うことはほぼなく、基本的には一方が話をしている間、他方は待合室で待ち、交互に調停委員を通じて話を進める形になる。
独りで調停に臨むとどうなるか・・・その心理状況
この調停、「話し合い」だから、訴訟のように専門的な書面や証拠を繰り出す必要がない。基本的には調停当日、裁判所に手ぶらで行って、調停委員に対して自分の言い分を話せばよい。このため、弁護士を手続代理人に立てず、本人独りで調停を利用するということも多く見られる。しかしこれが失敗のもとだったりする。
Aさんのケース・・・婚姻費用分担調停
法律に素人であるAさんが、女を作って家出した夫に、自分と子どもの生活費を請求しようとしている。夫に話しても頑として生活費をくれないので、ネットで調べたら、家庭裁判所で調停を申立てたらいいと言うことを知った。ネットには簡単だと書いてあったので、自分でやってみようと思った。婚姻費用分担調停を申立てたのだ。
そのAさんが、自分独りで調停を行ったことを、次回からドラマ仕立てで描いてみよう。もちろんこれは、現実の依頼者の話ではなく、私の経験に基づくフィクションである。