弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

【連続ドラマ】弁護士抜きで臨む「調停」の怖さ(2)本人編・第1回

 いよいよ、今日から数回に分けて、弁護士抜きで家事調停に臨んだAさんの告白を、ドラマ仕立てでお送りしよう。冒頭言はこちら

 ドラマ最終回後に、弁護士抜きで臨む調停の怖さについて解説する。後ほど解説する部分には(※1)のように米印をつけた。わかる人は解説を想像しながら読んでほしい。なおこれは、弁護士抜きで調停を進めたら絶対失敗するといいたいものではない。自分独りで進めるなら、こんなリスクを知っておいてくださいねということなので、そのつもりでお読み頂けると幸いである。

前提となるあらすじ

 前提となるあらすじは、こうだ。

 Aさんが、女を作って家出した夫に、自分と子どもの生活費を請求しようとしている。夫に話しても頑として生活費をくれないので、ネットで調べたら、家庭裁判所で調停を申立てたらいいと言うことを知った。そのネットには、調停は裁判と違って、話し合いなので簡単だと書いてあったので、自分でやってみようと思った。

 そこでAさんは婚姻費用分担調停を申立てようと決意した。ドラマはここから始まる。

 

「法務」事務所へ・・・調停申立

 旦那が家出してもう1年になる。

 女を作って勝手に出ていったくせに、生活費をちっとも払ってくれない。彼は一流商社の会社員で、給料も十分出ているのに、離婚するなら払ってやる、俺の言うことを聞かなければ払わないって、わけわかんないことしか言わない。もういっそのこと彼の言いなりになって離婚しちゃおうかな。

 そんなことを考えつつ、ネットを見ていたら、離婚専門って書いてある「法務事務所」のホームページがあった。法務事務所って、弁護士さんの事務所だろうか(※1)。

 そのホームページを読むと、生活費をもらうには、家庭裁判所に調停申立をするといいって書いてあった。その申立のための書類を作成しますって。弁護士費用って高いと思ってたけど、この法務事務所の費用を見るとなんだか安い。最初の費用は5万円だって。ちょっと頼んでみようかなと思って、その法務事務所を訪れた。

 そうしたところ、若い人が現れて挨拶しながら名刺をくれた。行政書士って書いてある。弁護士じゃなさそうだけど、同じ「士」が付いてるし、きっと弁護士さんと似たような知識がある人なんだよね。ホームページに離婚についていっぱい書いてあったし。

 その人に状況を相談をしたら、それなら家庭裁判所に調停申立したらいいですねって言われた。「チョーテー」って何だろうと思って不思議な顔をしていたら、「ああ、大丈夫、裁判所でやる手続ですけど、中身は話し合いですから」だって。それでも不安そうな顔をしているのを感じ取ったのか、その人、「うちで申立書類を作ってあげますから、それを持って自分で家庭裁判所に行ってみてください」って言われた。「え!自分で行くんですか?」ってびっくりしたら、「そうですよ、調停は話し合いだから、自分だけで全然大丈夫です。みんな独りでやって良い結果を出してますよ」って言う。

 私としては、全部代わりにやってくれるのかと思っていたので、「こちらで裁判所に書類を出したり、調停に一緒についていってくれるんじゃないんですか?」って尋ねたら、「うん、まあ、それはね・・・」ってなんか歯切れが悪い。そして「費用が安いからここまでしかお手伝いできないんですよ」って言われた。安いからだって言われれば、そんなものかなと思って、申立の書類だけ作ってもらうことにして、あとは全部自分でやることにした。費用5万円。申立の書類は思ったより枚数が少なくて、そんなに書くところも多くなさそうだったけど、なんか専門用語も書いてあるし、これで5万円だったら、ま、いいかって思った。

家庭裁判所へ・・・いよいよ申立て

 裁判所には電車で行った。天気がよかったからいいけど、裁判所って駅から遠いんだね。歩いて15分もかかった(※2)。

 裁判所の建物は、色味がなくて冷たい。飾りっ気がなくて無機質な感じ。中に入るのに受付に許可をもらう必要があるのかなと思って、免許証とかすぐ出せるようにしていたのに、あっさり中に入れた。建物に入るのは、フリーパスなんだ。知らなかった。(※3)

 でも裁判所の中って、なんだか薄暗い。節電してるのかな、蛍光灯が間引きして点灯している。暗い気持ちで訪れる場所なのに、こんな薄暗くしてると、ますます気分が滅入っちゃうな。壁もなんか薄灰色っぽいし。クリーム色とか優しい配色にして、電灯ももう少しつけてくれたらいいのに、なんだか私が裁かれに来たみたいで緊張する。

 法務事務所で作ってもらった申立書類を裁判所の事件受付に提出する。

 申立書類の記載事項に不足があったみたいで、受付の担当の人からいろいろ尋ねられた。裁判所の人は思ったより親切で、これだったら申立書類は自分で作れるかもしれないって思っていたら、どうやら裁判所のホームページに書類のひな形や書き方が類型別に書いてあるんだって!知らなかった。裁判所の受付にも申立て用紙が置いてあったし、書類の書き方とか相談に乗ってくれるみたいなので、最初からそれを知っていたら自分でやったのに(※4)。5万円損したかも。

 でも弁護士さんに頼むと何十万円も弁護士費用がかかるみたいだし、法務事務所の人、この先も相談に乗ってくれるって言ってたし、弁護士さんに頼むより安く済んでよかったかな。まあいいや。

 とりあえず申立て自体はそんなに時間もかからずに終わって、うちに帰ってきた。第1回目の期日は、1ヶ月くらい先になるでしょうって。

第1回調停期日

 いよいよ第1回調停期日。なんかここまですごく長かった感じがするけど、でもまだようやくスタートラインなんだよね。生活費も両親に援助してもらいながら繋いでる。

 相変わらず薄暗い裁判所の廊下を通って、書記官室に向かう。出頭したら書記官室に来てくださいと書いてある。出頭・・・って、私、なにか悪いことした人みたいでイヤだな。なんだかもう帰りたくなったけど、子どものためにもちゃんと生活費をもらわなくっちゃ。がんばる。

 あ、そうだ、その前にトイレに行っておこう。あれ、トイレ、いまどき和式? いや洋式もあった。よかった。ウォシュレットも付いてるけど、なぜか電源が入ってない。これも節電かな。洗面台横にエアタオルも付いてるけど、紙のふたがしてあって<節電中につき使用禁止>だって。節電するなら最初からつけなきゃいいのに。へーんなの(※5)。

 トイレを済ませてから、指定された書記官室に行くと、皆さん忙しそうに仕事をしていた。私が入っても、こちらに目もくれないので、「あの・・・すみません」と声をかけたら、一番手前に座っていた人が立ち上がって「調停ですか?」と聞いてきた。「はい、Aと言います」と言うと、「えーっと、10時の調停のAさんですね、じゃあ、呼ばれるまで申立人待合室で待っていてくださいね」と言われた。

 待合室は、申立人と相手方で別れているみたい。旦那と一緒になるかと思ってドキドキしていたけど、そんな心配は無さそう。待合室には、ベビーベッドや絵本が置いてあってちょっとほっとした。でも、待合室も色彩のない堅い感じで、裁判所って全体を隅々まで冷たくコーディネイトしちゃってるのかあ。

 周りを見渡すと、たくさんの人が待っているけど、弁護士さんと一緒に来ている人が意外と多いみたい。調停は独りで大丈夫だって情報、本当にあてになるのかしら。次からは、ちょっとお金を払ってもいいから、法務事務所の行政書士さんについてきてもらおうかな、それともお父さんに一緒に来てもらおうかな、なんか独りだと心配(※6)。

 10時ちょうどになって、待合室が慌ただしくなった。案内係の人だろうか。年配の人が待合室に来て、「●●さん、●号室へどうぞ」って待っている人を連れて行く。いっぱいだった待合室からどんどん人がいなくなって、私も呼ばれた。案内係の人、やっぱり年配の人だった。お母さんくらいの年齢の女性。愛想がいいわけではないけど、特に冷たい感じもしない。普通にその辺にいる、ちゃんとしたおばさんな感じ。

 案内係のおばさんに連れられて薄暗い廊下を歩いて行く。

 廊下の左右に、似たようなドアがずらっと並んでいて、<1号室>とか<2号室>とか書いてある。号室の名札の横にランプが点くようになっていて、ランプが点いている部屋と点いていない部屋がある。このランプ何を意味するんだろう?(※7) まさか入ってランプが点いたら死刑執行みたいなことになるんじゃないよね?!やだよー。怖いよー。

 調停室入室・・・いよいよ始まる!

 調停室に入ると、おじさんがひとり座っていた。そして案内係のおばさんも、そのおじさんの隣に座った。え、案内係じゃなくて、もしかしてこのおばさんが調停委員って人?

 「どうぞおかけください」

 二人並んで座ったおじさんとおばさんに促されて、テーブルの前に座った。テーブルは6人掛けくらいの狭くて安そうな事務机。椅子も、コクヨのたぶん一番安いやつ。昔事務用品店でバイトしてたことがあるから、わかるんだ。テレビドラマで見る裁判所のテーブルとか椅子って、木製の重厚なものだから、てっきりそういう重役室みたいな内装なのかと思ったら、廊下と一緒で無機質で冷たい感じだった。部屋にはカーペットも敷いてない。まあ税金の無駄遣いはしない方がいいから当然か。でも悩みを解決するための病院みたいな場所なんだから、せめて花瓶くらい置いてくれたら和むのにな、なんて思っちゃった。

 「調停委員の佐藤と言います。」「調停委員の山田です。」

 男女の調停委員が名乗った。やっぱりこの二人、調停委員って人たちなんだ。でも、いったいこの人たちはどういう立場の人なんだろう。裁判官ではなさそうだが、裁判所の職員なんだろうか、弁護士さんなんだろうか、ともかく法律の専門家には違いない。逆らったりしたら大変なんだろうな。おとなしくしてよっと。(※8)

 「私たち以外に、もう一つ席が空いていますが、実はこの空いている席は、裁判官がお座りになる席です。いつもいらっしゃるわけではありませんが、重要な場面ではお越しになります。調停委員会は私たち二人と裁判官で一緒に進めることになりますから、よろしくお願いします」と説明があった。ふーん、裁判官ってやっぱり雲の上の人なんだ。ときどき降臨するんだね(※9)。ますます緊張。

 そのあと、調停についての説明があった。わかりやすく説明してくれて、あ、なんだかこの人たち、ちょっといい人かもって第一印象。何でも遠慮無く話してくださいね、ここで話したことは外には漏らさないし、相手に伝えたくないことがあったら伝えませんからね、って。いい人たちでよかった。

 「それでは、始めます」

 わあ、ついに始まっちゃう!

(つづく)

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