弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

【連続ドラマ】弁護士抜きで臨む「調停」の怖さ(6)解説編・第1回

(前回までの本人編)

今度は「法律事務所」で法律相談

 オガワ綜合法律事務所に相談予約を入れたAさんがやってきた。

B「はじめまして、弁護士のオガワBです」名刺を渡す。

A「あ、どうも。Aと申します。あの、私、名刺ないんですけど・・・よろしくおねがいします」

 ぺこりと頭を下げる女性。その後、これまでのことをひととおり話してもらった。自分で婚費分担調停を申立てたこと、不本意な内容で調停が進み成立したこと、成立させた内容も思っていたのと違うこと、そんなことを、目に涙を浮かべながらうつむき加減に話をしていた。先ずはひととおり話をしてもらうことが大事だから、あまり口を挟まずに、話を聞いた。そしてオガワ弁護士が頭の中でつぶやいた言葉は、

 《うーん、またしても本人調停失敗さんかあ》

 全部話をして少し落ち着いたのか、彼女は握りしめていたハンカチを綺麗にたたみ直して机の上に置き、オガワ弁護士を見た。弁護士の顔色を窺うような、不安そうな目だ。

B「なるほど、ここまでのいきさつはわかりました。調停をひとりで終えて、なんか思ってたのと違うって相談、実は意外と多いんですよ」

A「え、そうなんですか」

※1『法務事務所』

B「はい。じゃあ、順にお話確認させてくださいね。まず、調停前に相談に行ったのは、法律事務所じゃなくて『法務事務所』? ホウリツじゃなくて、ホーム事務所ですね?」(本人編・第1回※1)

A「ええ、《離婚》でネットをググったら、そこが出てきたので。弁護士事務所じゃないことはなんとなくわかったんですが、法律事務所と名前が似てるし、価格も安いし、弁護士さんと似たような専門家だと思って」

B「そういう人、結構いますね。弁護士のいる事務所は『法律事務所』といいます。弁護士法で、弁護士以外は法律事務所の名称を使ってはいけないことになっています。このため、『法務事務所』は、弁護士ではない人が開いた事務所です。名前が紛らわしいので、法律事務所と似たものだと誤解する人がいるのですが、違います。私に言わせれば、『アディダス』と『アディオス』みたいです。あるいは、『シャネル』と『チャンネル』みたいな。勘弁して欲しいですね」

A「そこに行ったら行政書士さんが出てきました」

B「行政書士は、訴訟や調停など裁判手続の専門家ではありません。およそ裁判手続全般について専門家と言えるのは弁護士です。司法書士も主として簡易裁判所での裁判に限っては裁判手続の専門家といっていいでしょう。その司法書士ですら、離婚や相続のような家族事件を取り扱う家庭裁判所の手続代理人にはなれません。したがって、およそ家庭裁判所で行う手続全般の専門家は弁護士以外にはありえないわけです。行政書士に婚費調停の相談に行ったのは論外でしたね。最初から弁護士に相談すべきでした」

A「そうだったんですか。司法書士さんて、伝統的には登記の専門家ですよね? その司法書士さんが、最近、弁護士さんに近い仕事もできるようになったとは聞いていたので、それと同じ「書士」って名前がついている行政書士は、司法書士と似たような位置づけかと思ってました」

B「違います。行政書士さんの殆どは真面目に本来の行政書士業務を行っていると思います。でも、中にはこのように裁判手続の専門家を装って、弁護士や司法書士でなければやってはいけない仕事を行ったり、ウェブで宣伝広告していたりする者がいます。こういうのは弁護士法等違反になり、俗に『非弁行為(ひべんこうい)』と呼ばれます。私も、東京弁護士会の非弁取締委員として各種調査に関わっています。怪しい業者を見かけたら、各地の弁護士会の非弁取締委員会に連絡してください」

※2 裁判所は駅から遠い

A「行政書士さんが、申立書を下書きしてくれても、私の代わりに裁判所に出しに行ってくれなかったのは、そういうことだったんですね。独りで裁判所に申立てに行ったんですが、心細くて、駅から裁判所に向かう道のりが長いこと長いこと。歩いたんですけど、すごく遠かったです」(本人編・第1回※2)

B「裁判所、だいたいどこも駅から遠いですよね。関東だと、駅のすぐ前にあるのは霞ヶ関の東京地裁や東京家裁だとか、横浜の横浜地裁だとか、それくらいじゃないですか。あとは市役所とか県庁とかのそばで、駅から遠いです。これは、昔、蒸気機関車が運行されていたころ、鉄道は煤煙公害の根源で、まさに煙たい存在だったため、市役所や裁判所がある街の中心からわざと離れたところに駅を作った名残らしいです」

※3 裁判所の入り口はフリーパス

A「先生、詳しいですね。裁判所にやっとたどり着いて、受付を探したんですけど、そういうの無くて。裁判所って建物の中に入るのはフリーパスなんですか」(本人編・第1回※3)

B「ええ、裁判所は公共の建物ですからね。まして裁判は公開して行うのが原則だって憲法にも書いてあります。もちろん調停は非公開です。あ、ちなみに、霞ヶ関の東京地裁や東京家裁だけは、全国の裁判所では珍しく入り口で検問やってます。飛行機搭乗前に行う所持品検査みたいな感じで、刃物など危険物を持ち込めないようになってます」

※4 裁判所のホームページは超充実

A「調停申立書を家庭裁判所の受付に出したら、申立の方法や書き方について、いろいろ親切に教えてくれました。ひな形も置いてあって、申立だけなら自分でできそうに思いました」(本人編・第1回※4)

B「そのとおりです。家庭裁判所は、地方裁判所よりも、本人手続に親切な印象ですね。やはり家庭問題と言うことで、本人だけで訪れる人が多いんじゃないでしょうか。地方裁判所よりも本人だけで利用しやすくなっています。そこが問題と言えば問題なんですが・・・

 ともかく、裁判所のホームページは、申立書のひな形や管轄など類型別に超充実しているので、我々弁護士も、申立てに先立って確認利用させてもらったりしています。独りで裁判所の手続を頑張ってみようという場合には、無資格者の変なホームページを参考にする前に、先ず裁判所のホームページを見ましょう。例えば今回あなたが行った婚費調停の申立であれば、URLは

 http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_07_03/

 ここを見ればバッチリでしたね。ただ、どうせ弁護士をつけるなら、申立て段階からやってもらった方がベターです。婚費調停なら申立書類への記載は簡単に書けそうですが、(1)どの手続をどう組み合わせていつ利用するか、(2)申立ての添付資料として何を提出しておくのが効果的か、(3)本来の管轄裁判所が遠い場合に、手近な裁判所で行えるように工夫できないか、(4)それでも遠い裁判所になった場合に、地元に居ながらにして電話会議を使えるようにできるか、この辺は弁護士ならではのノウハウがあります。申立書類自体は簡単でも、実は奥が深いのが法的手続です」

※5 裁判所って薄暗いしトイレも不便

A「調停に入る前に、トイレ行ったんですけど、裁判所のトイレってなんか古くさいですね」(本人編・第1回※5)

B「新しい庁舎だと綺麗なところもあります。横浜地裁本庁なんて、たぶん皆さんがテレビドラマや映画で見て思い浮かべるような、荘厳で今風の素敵な庁舎です。でも、だいたい地味で古い建物であることが多いです。公共施設のトイレって大事だと思うんですけど、ほころびていたり、中途半端に節電していたり、若干意味不明な仕様の空間になってると思うことがあります。そういうときはFacebookに、すかさず批判を書きこんだりしてますけど(笑)」

A「えー、弁護士さんが裁判所の批判とかしちゃって大丈夫なんですか?仕事に影響しませんか。負けやすくなっちゃうとか」

B「あははは、そんな、ありえないですよ。裁判所の批判をする弁護士には厳しく接するとか、そういうどこかの外国みたいなことは起こりません。むしろ我々弁護士は、裁判所をはじめとして公権力を批判することを期待されている立場です。だから《弁護士自治》といって、監督官庁も存在しません。これが法務省や裁判所から監督されていると、彼らにはものを言いにくくなっちゃいますから。戦前はそうだったらしいです」

※6 調停手続の代理人になれるのは弁護士だけ

A「ところで、調停で、行政書士さんに来てもらおうと思ったら、行けないって断られたんです」(本人編・第1回※6)

B「でしょうね。さっきお話ししたとおり、調停の手続代理人になれるのは弁護士だけです。手続代理人になった経験が無いのに、申立書類の下書きをしたり、手続の相談に乗ったりするのは、僕に言わせるとあまり感心しません。我々法律家は、いわば職人ですから、現場の経験もないのに、どうして現場を語れるんだろうと不思議に思います。弁護士以外で、家事調停について得意げに語っている人は、だいたいどこかからの受け売りです。職人は経験値がものを言う世界ですから、どうやって職人の経験値を見抜くか、弁護士については、ブログに書きましたから、あとでここをご覧ください。《弁護士の選び方(4)・・・経験年数》

 ※7 調停室のランプ

A「調停室に入る時に気づいたんですけど、調停室の扉の上にランプがついてました。消えてるのと、グリーンに灯ってるのと、赤く灯ってるのとがありましたけど、あれは何か意味があるんですか?」(本人編・第1回※7)

B「ランプが付いているかどうか自体、裁判所によって違うので、全国一律のものではないと思いますが、例えば東京家庭裁判所本庁の例で言うと、ランプが消えている部屋は空室、グリーンのランプが灯っているのは調停中、赤いランプが灯っているのは裁判官も在室していて調停中、こんな感じです」

※8 調停委員とはどんな人

A「調停委員さんって、どういう人たちなんですか。なんだかすごく気を遣っちゃったんですけど」(本人編・第1回※8)

B「調停委員は、申立人と相手方の話し合いの中で、合意をあっせんして争いの解決を図る人たちです。裁判所の常勤職員ではありません。だいたい、40歳から70歳くらいまでの人で、弁護士、医師、公認会計士などの専門家や、学校の先生だとか地域社会に密着して幅広く活動してきた人など、社会の各分野から選ばれます。要するに有識者って人たちです。ただ、家事調停では、男女一人ずつ調停委員を指定することになっています。例えば東京家裁本庁では、相続事件なら弁護士資格を持っている調停委員が一人入ることが多いですが、離婚調停や婚費調停など夫婦関係事件では、弁護士資格を持っている調停委員は入らない印象です。ほかの裁判所も同様の傾向があるのではないでしょうか」

A「そうすると、私の調停を担当してくれた調停委員は二人とも弁護士さんではなかったのかなあ。お二人とも、襟元に金色の弁護士バッジみたいな丸い菊のバッジをしてたんですけど、やっぱり弁護士さんだったんでしょうか」

B「どんな形のバッジでした? 僕が今しているバッジと比べてどうです?」

A「えーと、似た感じの丸い菊のバッジですけど、先生が今つけているのと比べて、もっと小さくて薄い感じです。」

B「ああ、じゃあ二人ともたぶん弁護士じゃないですね。もちろん調停に際して、弁護士委員が調停委員のバッジをつけることもありうるわけですが、弁護士委員はだいたいそのまま弁護士バッジをつけていることが多いです。これより小さい菊のバッジなら、それは調停委員のバッジですね。見えにくいですが、真ん中に「調」って文字が入ってます。ちなみに、この弁護士バッジは、菊ではなくて、ひまわりですよ。真ん中には天秤が入ってます」

A「ひまわりなんですか、知らなかった。てっきり菊だと思ってました。あ、でも、先生のバッジ、銀色ですね。いぶし銀。調停の待合室で、若い弁護士さんがつけていたのは金ピカでしたけど・・・」

B「弁護士バッジは新品のうちは全員、金ピカです。私のもそうでした。これ、純銀製で金メッキを施してあるので、年数が経つと金メッキがはげてきて、地金が出てくるんです。それで弁護士を何年もやっている弁護士は銀色になるんですね。金ピカで新人に見られるのがイヤで、紙やすりでメッキをはがして銀色にしちゃう猛者もいるようですが(笑)あと、明らかに老練な弁護士なのに金ピカのバッジをつけている場合は、紛失して再発行してもらったか、特注の純金製のバッジか、どっちかですね。純金製のバッジは殆どつけている人はいませんけど、長年使い込んでいると、金ピカというより飴色の落ち着いた金色になります。」

※9 調停における裁判官の位置づけ

A「調停成立するときに裁判官出てきましたが、それ以外には裁判官は席だけ用意されていて、実際にはいませんでした。調停での裁判官って、どういう立場なんですか?」(本人編・第1回※9)

B「家事調停は、『調停委員会』という合議制で進められます。その構成メンバーが、裁判官、調停委員男女各1名の合計3名です。もう少し正確に言うと、家事調停の調停委員会を構成する裁判官は、家事審判官という裁判官なのですが、裁判官以外にも家事調停官という弁護士だったりもします。裁判官も弁護士も法曹としては同等の資格ですので、家事審判官と家事調停官も、調停においては同等です。ただ、家事調停官になれる弁護士は弁護士経験年数5年以上ですので、新人弁護士はなれません」

(つづく)

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