弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

【連続ドラマ】弁護士抜きで臨む「調停」の怖さ(7)解説編・第2回

(前回は解説編・第1回)

先生なかなか帰ってこないな

 ・・・いやぁ,Aさんの相談途中にかかってきた電話が意外と長引いちゃって,Aさんをすごく待たせちゃったぞ。Aさん,きっと《半年も待たされてる気分だ》って怒ってるだろうなあ。。。

※10 「事情書」を準備する

B「お待たせしました!」

 Aさん,うつらうつら居眠りしてた。そんなに待たせちゃってたか。ほんと,申し訳ない。

A「あ,オガワ先生,おかえりなさい。あたし,眠っちゃってて。半年くらい待った気分ですけど,ぜんぜん大丈夫です。。。」
B「すみません,ちょっとデスクで半年ほど気を失っちゃってたみたいで」
A「え!? 大丈夫ですか,先生?」

 冗談,通じない。ともかく,話を続けよう。

B「さて,どこまでお話ししましたっけ。ああ,そうそう,調停裁判官の役割をお話ししたところまででしたね」
A「はい,調停委員会のお話を伺いました」
B「初めての調停で,調停委員に話を上手く伝えるのが難しくありませんでしたか?」
A「そうなんです!裁判所っていうだけで緊張するのに,なんか学校の先生みたいな年輩のおじさんおばさんに正面に座られて,二人してこっちをじっと見られて,私,独りきりだし,緊張したり不安だったりで,あらかじめ思っていたことの半分も話せませんでした。あとになってから,ああ,あれを話しておけばよかったとか沢山後悔しました」
B「ですよね。だから,《事情書》を書いて持って行ったらよかったんですよ」(本人編・第2回※10)
A「私もそう思いました!話したいサマリーを提出しておけば,緊張して話ができなくても,それを読んでもらえば大丈夫だったなあと」
B「そうです。あらかじめ作って,事前に裁判所に送っておくのがベストですが,当日手渡しでもまあいいでしょう。なお,裁判所に提出する書面は,裁判所用と相手方用の2通を提出するのが原則です。裁判所用は『正本』,相手方用は『副本』といいます。ただ,調停の場合には,相手方にそのまま渡すと,書かれている内容次第では角が立って,話し合いに差し支えが出ることもありますので,相手方には非開示の扱いにしてもらって,裁判所だけに書類を見せるようにすることも可能です。極端な話,裁判所にも提出しないで,自分の調停用手控えメモとして作って提出しなくてもいいんです。でもせっかく作ったなら提出した方が,調停委員もいつでも参照できますから,できれば提出した方がいいでしょうね」
A「そうだったんですね。この次から・・・あ,もうこの次はイヤですけど,もしこの次があるようなら,そうしたいと思います」

※11 調停の時間割

A「調停の時間なんですけど,30分交代で進めるって言われたんですが,そんなものなんですか?」(本人編・第2回※11)
B「だいたいそんな感じですが,30分交代と決まったものではありません。家事調停は,民事調停と比べて1回の期日にじっくりと時間をかけて行われることが多い印象ですが,午前の期日は朝10時から昼12時まで,午後の期日は昼1時30分くらいから夕方5時まで,話し合いがキリのいいところまで続く限り行われる感じです。裁判所もお役所なので,昼休みや夕方の終業時間には敏感なんですが,調停が白熱すれば,昼休みを過ぎたり,夕方の退庁時間を過ぎても行ってくれることがあります。こういうところは結構親切です」

※12 調停でなにを伝えるか

A「調停委員から,婚姻費用の具体的金額についていきなり聞かれて困ったんですが。。。」(本人編・第2回※12)
B「ああ,なるほどね。そこで困っちゃいましたか。いかに調停が話し合いだといっても,裁判所の法的手続きです。調停を申立てた肝心の『主張』くらいは,ちゃんと具体的に言えるようにして臨みたかったですね」
A「そうですよね。言われてみればそうなんですけど,弁護士さんもつけずになんとなく申し立てて,なんとなく出席したので,何とかなるかと思ったら甘かったです」
B「行政書士さんは調停の手続代理をした経験がないわけですから,そういう調停に臨む心構えは教えられなかったでしょうね。調停は,申立て書類を書くだけなら実に簡単で,行政書士に頼むまでもなく自分で書けますが,実際に開かれた調停の中で(1)自分がなにを実現したいか,(2)実現したいことが法的な権利として認められるものか,(3)相場にかなった要求か,この辺をしっかり考えておかないと,ただ単に申し立てて出席しましたが何か?という傍観者になってしまいます。こうして闇雲に申し立てただけだと,こちらが申立人なのに,逆にしっかり準備して臨む相手方に有利に展開されてしまったりしかねません」

※13 家裁待合室の心構え

B「ところで,家裁待合室の雰囲気は,どうでしたか?」
A「思ったより明るくて,いろんな人がいました。一見,病院か銀行の待合い場所的な様子ですが,漏れ聞こえてくる話を聞くと,やっぱりみんな深刻な問題を抱えてここに来ているんだなって思いました」(本人編・第2回※13)
B「そうですね。調停は本人だけでできると言われますが,意外と弁護士連れで来ている人が多くなかったですか。私のブログにも書きましたが,調停こそ弁護士と一緒に臨みたい手続なんです。本人だけで調停をやって失敗した人・後悔した人は,結構多いという印象です」
A「今回自分一人でやってみて,ほんとそう思いました。初めてのことで流れがよくわからない不安や,調停委員が使う法律用語がわからない不安や,とにかくひとりぼっちの不安や,そういうたくさんの不安が,弁護士さんと一緒ならだいぶ軽くなるんじゃないかって感じました。弁護士さんと一緒に来ている人が羨ましくて」
B「あと,余談ですが,待合室には相手方関係者が紛れ込んでいるかもしれないと思って,あまり気楽な会話はしないことです。弁護士さんと一緒とか家族や友人と一緒の場合には,待合室で内密な打ち合わせをしない方がいいかもしれません。相手方のスパイが平然と座っていることは少ないかもしれませんが,待合室は誰でも出入り自由ですから,誰が話を聞いているかもしれないと思っておいた方がいいでしょう。実際,悪気はなくても,相手方代理人が申立人待合室と相手方待合室を間違えて,同じ待合室に座っていると言うことはたまにあります」

※14 民事事件と警察

A「そういえば,私の調停の時に,待合室でエキサイトしているお姉さんがいました!話し丸聞こえで,聞いてるうちにすっかり話が伝染っちゃって,『警察にしてください!』とか意味不明なことを口走っちゃいました」
B「家事調停で警察ですかあ。。。」
A「たぶん警察の出る幕じゃないとは思うんですけど,なんか裁判で解決できない場合には,警察が頼りになるんじゃないかって思いがちです」(本人編・第2回※14)
B「一般の感覚としては,そうかもしれませんね。ただ,警察は《民事不介入》といって,犯罪以外のトラブルは原則として相手にしてくれません。男女問題で暴力被害を受けているとかストーカーされているとかであれば,それ自体が犯罪行為なので警察が取り扱ってくれることもありますが,普通の離婚問題や生活費問題は,生活相談として話を聞いてくれることはあっても,区役所の人に話を聞いてもらってるのと大差ありません。つまり聞いてくれる以上に,実際に動いて助けてはくれないということです」
A「そうなんですね。やっぱり民事事件は,自分独りで闘わなくてはいけないんですね」
B「いえ,自分独りではないですよ。まさに,そのための弁護士です。民事事件を一緒に闘うプロが弁護士ですから,警察ではなく弁護士を頼ればいいんです」

※15 相手方の「言い分」

A「ところで調停で,うちの旦那の《言い分》を聞かせてもらったんですけど,ずいぶん身勝手でいい加減なことを言っていたみたいです。調停委員も,その話を真に受けてる気がして,彼の味方なのかなって思っちゃいました」(本人編・第2回※15)
B「そう思いがちですよね。調停委員は当事者と利害がなく,一方に荷担してもいいことはないので,決して一方の味方をしているわけではないのですが,話を上手くまとめるために,両方に対して,相手方の言い分に乗った厳しいことや不利なことを述べて譲歩を引き出そうとすることがあるように思います。これ,両方に対して同じようにやっていると思います。だから,彼にどう言っているかがわからない状況下では,彼の味方のように思う瞬間があるわけですが,彼は彼で調停委員はあなたの味方をしていると感じていると思います。慣れないとこの辺の感覚は測りにくいでしょうね」
A「そうなんですか。確かに旦那の言い分を伝えてくれているだけなので,冷静に考えればいいんですけど,その場では,なんで私のことをわかってくれないんだろう,伝わらないんだろうとイライラする気持ちもあって冷静に受け止められませんでした」
B「そういう人多いですよ。私自身ですら,ときどき,調停委員の言い方・伝え方がおかしすぎると思うと,調停委員に噛みついてしまうこともあります。弁護士なんだからもう少し冷静にならないといけないと反省するんですが,当事者の気持ちを熟慮しないで,ただ話をまとめればいいと思っているような印象を受ける調停委員には,どうしても噛みついてしまいますね。それじゃああんまり不正義だろう,この人が救われないだろうって」
A「先生,熱いですね」
B「すみません,熱く語ってしまいました。調停委員は,尊敬できる篤志家が多いと思いますが,離婚事件では弁護士資格のある調停委員が関与しないことが殆どで,法律論よりも,真ん中をとってお互い解決しちゃいなさいよみたいな感覚を持っている人が散見されます。実際そんな風に思っていなくても,こちらへの伝わり方がそう見えてしまうんですね。話し合いの仕切り方が下手なんです。これじゃいけない。確かに調停は話し合いですから,円満解決できるかぎり当事者が自由に決めていいわけですが,しかし家庭裁判所という法律が支配する場での話し合いです。やっぱり法律論や法的相場に軸足を乗せた解決をしなければならないし,当事者に軸足を乗せる知識がなければそれを調停委員が補ってやった上での解決じゃなくてはいけないと思ってます。ここが,ただの適当な話し合いの場とは違うところなんですよ」
A「はい,弁護士さんが一緒についてくれていればいいんですが,私みたいに独りで調停に臨んでいると,言ったことや言われたことが,果たして法律に適っていることなのか,相場なのか,全然わかりませんから,なんだか調停委員に押し切られちゃう気がして。。。」
B「そうなんです。そういう素人の《分からないのツボ》をわかってくれる調停委員がまだまだ少ない印象です。弁護士が付いていない素人が独りで調手に臨むということが,いかに法的知識がなくて,いかに自分を守るすべを知らないまま,不安いっぱいであるか。ここを親身にわかってやらないといけない。とはいえ,調停委員も法律の専門家でなければ,たいした場数も踏んでいないし,弁護士のような法律問題のジェネラリストでもないわけですから,なかなか上手く仕切れないでしょう。これはやむをえないと思ってます。だから,自分の権利は自分で守る。つまり,調停も弁護士にしっかりアシストしてもらうのがベストだと僕は思ってます。訴訟で弁護士を依頼するのは普通の市民感覚だと思いますが,調停だって弁護士をしっかり確保して依頼すべきです。これは営業トークでも何でもなく,経験上の真理だと思ってます」
A「ほんと,今言われて,そう思います。今回私独りでやった婚姻費用分担調停も,いろいろ失敗したんじゃないかと思って,今日ここに来たんです」
B「じゃあ,ちょっと調停調書を見せていただきましょうか」

 Aさんがオガワ弁護士に調停調書を見せた。オガワ弁護士は,眉をひそめてムムムという険しい顔つきをした。その表情を見て,不安になるAさん。

(つづく)

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