弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

弁護士の選び方(14)・・・弁護士の頼み時

 前回,「弁護士報酬」について総論的に語ってみた。弁護士報酬は皆さん興味のあるところだと思うので,今後も時々お話しをするつもりだ。今日は,報酬ではなく「弁護士の頼み時」についてお話ししてみよう。

 この連載,今回で14回目となるが,全体として各論があちこちに飛びがちだ。一冊の本として出版のあかつきにしっかり整理するので(今のところ,そんな予定はないが(笑)),ブログの段階では気ままに書かせて頂こうと思う。ご容赦頂きたい。

例えば舛添さんの失敗

 まず,弁護士の頼み時を間違うと,とんでもないことになるという好例を。

 本日,舛添東京都知事が退任するそうだ。実に下らない話だったと思うが,舛添さん最大の失敗は,「第三者の弁護士」とやらを頼んだことだったと僕は思っている。

 というのも,彼が調査をしてもらった弁護士は,いわゆる第三者委員会でも何でもないからだ。彼が金を払って依頼した弁護士なんだから,形式的には第三者であっても,中立公平な第三者とは到底言えず,「彼の味方としての代理人」に過ぎないのだ。自分が金を払った代理人を,さも中立公平な第三者委員会であるかのように装ったところに,舛添さんの大失敗がある。そして,弁護士側も,記者会見で記者たちと対立的なムードになるなど,やっぱり舛添さん側の弁護士だなと印象付けた失態がある。

 このように,弁護士の頼み時・選び方を間違うと,高い金を払うわ,結果は出ないわ,かえって話が変な方向に進むわ,踏んだり蹴ったりの結末を迎えてしまう。本当は,弁護士側が「頼まれ時」「選ばれ方」を含めてアドバイスをしないといけないわけで,弁護士としても,なんでもかんでも直ちに受任して正面に立てばいいわけではない。今はまだ弁護士がフロントに出る時期ではありませんねとか,この件は私では経験不足なので他をご紹介しましょうとか,そういう弁護士側の配慮が実は最も重要なのだ。

 しかし,今時,弁護士側の配慮が期待できないこともあるので,依頼者側の自己防衛として,弁護士の頼み時について個別に知って頂こうと思う。

弁護士をすぐ頼んだ方がいいケース

1,訴状が届いた

 裁判所から訴状だとか申立書だとか書類が届き,そこに,いつまでに答弁書などの書面を出せとか,いついつ裁判所に出頭せよとか,そんなことが書いてある場合。これはもう,法的手続に巻き込まれたわけだから,弁護士にすぐ相談した方がいい。

 訴状等に書かれている内容が,因縁をつけられた類いの馬鹿らしい内容であっても,ちゃんと対応しないと負けることがある。したがって,法的手続の専門家である弁護士に,直ちに相談して今後の対応を決めなくてはならない。これは必須。法的手続には応答期限があるので,絶対に放置してはならない。忙しくても,全てキャンセルして即刻,相談しに行くくらいで正解だ。

 もっとも法的手続は,弁護士に依頼した方がいいに決まっているわけだが,弁護士費用との見合いがある。民事事件など多くの法的手続は弁護士を頼まずに自分でやることも可能だ。俗に「本人訴訟」と称したりする。この本人訴訟,多くの場合にはお勧めできないが,自分でやるか弁護士に依頼するか,訴訟の難易度と弁護士費用との見合いで弁護士とよく相談して決めたらよい。

2,弁護士から通知が来た

 弁護士から,ある日突然手紙が来る。内容証明郵便の形であることが多いが,ともかく文書が届く。その内容は,だいたい「いつまでにいくらを支払え」という請求書であることが多いだろう。或いは「何かをするのを止めなさい」ということもあるだろう。

 この場合,その弁護士からの通知内容を素直に受け入れるならそうすればいいが,内容に納得がいかない場合は,手紙を送ってきた弁護士に反論することになる。そこで,取りあえず自分で対応しようということで相手の弁護士と話をすると,だいたい不愉快な思いをしたり失敗したりする。なぜなら,相手の弁護士はあくまでも相手本人の利益を100%実現する立場だからだ。法的な交渉は百戦錬磨で,あなたと話をして言い負かされたり説得されることは全く予定していない。仮に弁護士側が法的には不利であったとしても,あなたとの論戦で降参することはない。二言目には,「では法的手続で決めましょう」と言われるオチだ。したがって,あなたが話をしても,ふんふんと適当に聞き流すだけだし,逆にあなたの話を密かに録音して不利な言質を取られたりする。実に不快・危険な交渉相手が弁護士だと思って頂きたい。かくいう私も,相手にしたら危険だ(笑)。

 したがって,弁護士から通知が来て,それに反論したい,交渉したいと考える場合には,弁護士を頼むのがベターだ。弁護士には弁護士をぶつける。素人が弁護士と交渉するなかれ。これが鉄則。

3,大至急法的解決をしたい

 例えば交通事故に遭った。怪我のために仕事を失った。だから明日の生活費がない。こういう場合,加害者にはすぐ賠償金を支払ってもらいたい。ところが,お金はありそうなのに,任意保険に加入しておらず,誠意もなく,賠償金の支払を渋る加害者。こんなケース,裁判をやれば勝てるわけだが,勝つまでには時間がかかる。半年とか一年とか。それでは明日の生活費には間に合わない。さて,どうしたらいいだろう?

 こういう場合に,弁護士ならば知恵を出せる。明日すぐとはいかなくとも,半年も一年も先延ばしにせずに速やかに当面の生活費程度を加害者から支払ってもらう法的手続を知っている。仮払い仮処分という民事保全手続を使うわけだが,これこそ弁護士の知恵と腕の見せ所だろう。素人では思いつかない専門家ならではの法的解決に進められるわけで,すぐに弁護士を頼む価値がある。

 もっともここで理解しておくべきは,「法的解決ができる」との条件付きということだ。何でもかんでも大至急解決をしたいならば弁護士がやってあげられるわけではない。弁護士は法的解決の専門家なので,法的解決が可能な限り,素人がやるより素早く対応できるという話なので,この点誤解なきよう。

弁護士をすぐ頼むかどうか熟考すべきケース

1,当事者で未だ何も話をしていない

 何かトラブルが起こった場合に,まず試みるべきことは「当事者間での話し合い」だろう。トラブルを生じさせた当事者本人同士で話し合うことが大人な対応というものだ。

 例えば,交通事故で,被害者から連絡が来た途端に,加害者が弁護士を立てて専ら弁護士に対応させる,こんな対応では,まとまる話もまとまらない。もちろん,事故現場で既に当事者険悪ムードで,事故責任も当事者五分五分ということであれば,すぐ弁護士を入れて話を始めるのもありだろう。しかし,加害者側が殆ど全て悪い事故なのに,いきなり弁護士に対応させるというのは,弁護士の対応が丁重なものであったとしても,被害者感情は悪くなる。これは普通に考えてわかるだろう。これが弁護士でなくとも,親が出てくるとかでも同様だ。つまり,大人のトラブルは,いきなり第三者頼みせず,先ず自分で解決を模索するのが原則だろうということだ。

 ただし無理は禁物。一回は自分で話し合いを試みるべきだろうが,そこでおかしな雰囲気になれば,躊躇なく弁護士に相談すべきだ。

 或いは,最初に自分だけで話し合いをするにしても,それに先だって弁護士に相談をしておいて,交渉の勘所や心構えのレクチャーを受ける。弁護士がいきなりフロントに立つから相手を無用に刺激するだけのことなので,弁護士が早くから背後でご意見番としてこっそり控えていることは,むしろ好ましい。弁護士をフロントに立たせるかどうかを熟考すべきという意味で理解していただきたい。舛添さんも,弁護士にはバックオフィスからアドバイスしてもらうだけにしておけばよかったと思われる。

2,弁護士を頼んでも結果が大して変わりそうにない

 訴状が届いたら弁護士を頼むのが原則だと言ったが,それにも例外がある。

 例えば,100万円の貸金請求訴訟が起こったとする。この訴状を受け取って内容を読んだら,確かに間違いはない。利息の計算なども問題がない。そして自分としては100万円の支払ができないことを申し訳なく思っていて,なんとかして返済したいと考えているけれども,今は無職で資産がない。そんなケースで,この訴訟のために弁護士を頼む必要があるかというと,ちょっと考えた方がいい。なぜなら,弁護士を頼んでも,弁護士の腕の見せ所がないからだ。請求を争わない以上,せいぜい分割払いの「お願い」をしに裁判所に行く程度しかやることがないが(それにしても原告が応じなければ話はつかない),それならば弁護士を頼まずに自分でやっても同じだ。もう少し言えば,資産が全くないなら,裁判に行く必要すらないかもしれない。

 こうなると,自己破産(or個人再生)申立すべきか,任意整理すべきかという点も踏まえて,この人の将来を全体的にどう解決したらいいかということこそ,弁護士に是非相談した方がいいとは言える。しかし,訴訟に限れば,弁護士を頼んでも頼まなくても結果は大差ないので,すぐ依頼した方がいいとは言えない。

弁護士に期待するとドツボにはまりかねないケース

1,中立な立場を期待したいとき

 例えば,離婚や相続協議の間に入って欲しいという依頼が,たまにある。間に入って,仲裁・調停して欲しいという依頼なわけだが,これもどちらか一方から金をもらう以上,なかなか公平にすることは難しい。それならばということで,仮に双方から半分ずつ金をもらっても,どちらの味方もできなくなり,対立論点が生じた場合にコンフリクトを生ずる。身動き取れなくなるわけだ。だから,こういう場合には,一人の弁護士が間に立つのではなく,離婚調停や遺産分割調停という裁判所のシステム(またはADR)を利用することをお勧めして,間に立つのは裁判所の調停委員会等,弁護士は一方当事者の代理人として,それぞれに就けて腕を振るわせるのが正解と言うことになる。

 また,今般の舛添さんのケース。舛添さんが金を出すのは中立性が担保できず論外だが,他方で,市民団体が金を出して第三者機関に依頼したところで今度は金を出した市民側に迎合しがちな結果が出そうだ。じゃあ東京都や政府がやればいいのかというと,こんな下らないことを税金でまかなうのは許しがたい。結局,本当に中立な第三者機関となると,裁判所とか,そういう法律上のシステムに基づくものにならざるをえない。

 したがって,特定の人から依頼を受けながら,その弁護士に中立な立場を期待する方が間違っている。弁護士は,依頼者のために最大限の利益を図る代理人・弁護人であって,誰かから金をもらって仕事をしながら,完全に公平中立だと言い切れる立場にはないのだ。

 もちろん弁護士の職業倫理として,社会正義の実現があり(弁護士法第1条),誠実かつ公正に職務を行うべき義務がある(弁護士職務基本規程第5条)。しかし,依頼者の利益から離れて,中立公平に職務を行うべき立場にないのは当たり前であり,そこを混同してはならない。

 もっとも世間には監査法人のように企業から金をもらいつつ,その企業に対して批判的な会計監査をすべき第三者機関も存在する。この仕組み自体,かねてより僕はいかがなものかと思っているが,しかし会計監査は,法律上,公平中立がある程度担保される仕組みが手当てされており,舛添第三者機関より,まだ全然マシだ。

2,経験不足の弁護士に依頼する

 今回の論旨からはやや離れるが,経験不足の弁護士に期待してはいけないのは当たり前の話だ。

 過去にこの連載で語ったが,経験不足の弁護士に依頼すると,事件がよけこじれることがある。経験不足というのは,弁護士としての経験年数に限ったことではなく,その事件分野における経験値のことだ。どれだけ事件に関わって解決してきたかという経験値。これが不足していると,おかしなことになる。弁護士は,医師のように専門認定制度が十分でないため,多くの弁護士が「何でも屋」だ。よろず承りますということだが,しかし弁護士ごとに,経験値は異なるはず。経験値が乏しいのに,セールストークだけは上手いという,商売人弁護士に騙されないようにしたい。

 この弁護士の経験値の見極め方は,なかなか難しく,簡単には説明できないが,まさに本連載はその一助とするべく,書き連ねているところでもある。バックナンバーを含めてご参考頂きたい。

さいごに

 以上,本連載,今後,思いついたら適宜追加推敲してゆくつもりだ。バックナンバーを含めて,時々改訂するのでご容赦頂きたい。

(つづく)

バックナンバー

 弁護士の選び方(1)・・・広告(総論)

 弁護士の選び方(2)・・・ホームページ(総論)

 弁護士の選び方(3)・・・学歴

 弁護士の選び方(4)・・・経験年数

 弁護士の選び方(5)・・・専門分野

 弁護士の選び方(6)・・・テレビ出演する弁護士

 弁護士の選び方(7)・・・本を書く弁護士

 弁護士の選び方(8)・・・講演する弁護士

 弁護士の選び方(9)・・・弁護士会長とか

 弁護士の選び方(10)・・・ヤメ検・ヤメ判

 弁護士の選び方(11)・・・初回相談時のチェックポイント・1

 弁護士の選び方(12)・・・初回相談時のチェックポイント・2

 弁護士の選び方(13)・・・報酬はなぜ高いのか?

 不定期連載中

小川綜合法律事務所
〒160-0004 新宿区四谷1-18-5 綿半野原ビル別館5階
Tel:03-5368-6391 / office@ogawalaw.com
Copyright(c) 2014 Ogawa & Associates Law Offices All Rights Reserved.