弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

弁護士の選び方(16)・・・先生、勝てますか?という質問・その1

「先生、勝てますか?!」

法律相談の際に、こんな質問をされることがある。

例えば、相手を訴えたいという場合に、相談者は切々と事情を説明し、それに沿う証拠を私に示す。それを見た私は、裁判ではいい線いけそうですねとコメントする。そうすると、「ということは、先生、裁判で勝てますか?」と質問されるわけだ。

この、「先生、勝てますか」の質問に対して、いつでも「うん、勝てるよ!」と太鼓判を押す弁護士は、相談者からすると頼もしく見えるかもしれないが、実はちょっと怪しい。絶対怪しいとまでは言わないが、ちょっとだけ怪しい。

今回はこの点について少し語ってみる。

どう答える弁護士が正解か

誠実な弁護士であれば、この質問に対して「この段階では『勝てる可能性がある』という以上にはっきりしたことは言えない」というコメントになる。ちょっと頼りないかもしれないが、これが当初の正しい答えだ。

もちろん、こちらが全面的な被害者である交通事故だとか、相手が借金を返済していないことが明らかな貸金請求だとか、そういう事案であれば、こちらの請求が裁判で認められるのはほぼ間違いない場合もあるだろう。そういう場合には、うん、勝つには勝てるよと言えそうだ。しかし、相談者からしてみれば、実際にいくらを確保できるのかが気になるところであり、果たして相談者が期待した額を回収できるかどうかはわからない。

また、勝つには勝てるように見える事件でも、実は相手の言い分次第では、負ける可能性もでてくる。相談者は、悪気はなくとも自分に都合のいい出来事や証拠だけを弁護士に示しがちなので、当初見せられただけの事実や証拠で考えれば勝てると思われる事件でも、あとになって相談者に不利な事実や証拠が出てくると、すっかり負けてしまうことがある。

だから、最初に相談を受けた程度では、どんなに勝てそうに見える事件であっても「勝てる可能性がある」という程度にしか答えないのが、先の読めるちゃんとした弁護士ではないかと私は思っている。

大風呂敷弁護士に注意

この点、初めて少し相談をしただけなのに、「うん、この事件は勝てるから裁判をやろう」と是非とも裁判を勧める弁護士は、僕からすれば、大丈夫だろうか、単に営業目的で大風呂敷を広げているだけなんじゃないだろうかと思えてしまう。

えてしてこういう弁護士は、いざ裁判をやって負けてしまうと、もっぱら裁判官のせいにする。絶対勝てる事件だったのに裁判官のせいで負けたと。もちろん、裁判官の評価によって結論が割れる事件もあるし、おかしな裁判官もわずかながらには居るので、そのような事件で負けた場合には裁判官のせいだという感想もあながち間違いではない。しかし多くの事件では、裁判官のせいで負けたというよりも、裁判官に対する主張立証のプレゼンテーション不足で負けたり、そもそも最初から勝てる可能性が低い事件だったりするのではないか。

むしろ経験豊富であるから勝てない要素に思い至る

経験豊富な弁護士は、いろいろな事件を経験していて、一見勝てそうな事件でも、負ける落とし穴を知っている。そして、負ける要素をいろいろと考えてしまうため、そう簡単に勝てるとは言えないのだ。

そして、こういう経験豊富な弁護士は、石橋を叩いて慎重かつ着実に事件を進めてゆくから、仕掛けられた落とし穴にはまらない。

だから、当初相談時に、簡単に勝てるという弁護士は一見頼もしいが、実は単なる経験不足のおめでたい弁護士か、営業重視の大風呂敷弁護士かもしれない。むしろ、こういう問題もありうる、ああいう観点もありうる、私が受任しても必ずしも勝てるかどうかはわからないと、あれこれ事件の弱点を見つけ出して逡巡するくらいの弁護士の方が、実は頼りになるかもしれないのだ。

私が考える良心的な弁護士とは、裁判にしろ示談交渉にしろ何にしろ、絶対勝てるからぜひやりましょう、是非私にお任せ下さい、是非ご依頼下さいと、相談者に無闇に直ちに依頼をお勧めしたりしないものだ。

 

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