非弁提携の禁止
弁護士法27条には次のような規定がある。
《弁護士は、第七十二条乃至第七十四条の規定に違反する者から事件の周旋を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。》
そして、弁護士法72条には次のように規定されている。
《弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。》
これらは要するに、弁護士以外の者が法律事務を取り扱ってはいけないこと、弁護士以外の者が弁護士と組んで仕事をしてはいけないことを原則として規定する。弁護士でない者(非弁)が法律事務を行うことを「非弁行為」といって弁護士法72条で原則禁止されており、この非弁と弁護士とが一緒に仕事をすることを、非弁提携としてしている。いずれも弁護士法77条で犯罪行為とされている(二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金)。
私は、東京弁護士会の非弁護士取締委員をつとめているが、非弁の事案や非弁提携の事案はあとを絶たない。本稿でその詳細は述べないが、弁護士の肩書きのない非弁よりも、弁護士の肩書きを持っていながら非弁に牛耳られている弁護士(非弁提携弁護士)は、見かけ上、まともな弁護士との見分けがつかないため、弁護士を探す一般市民にとっては大問題となる。
そこで、非弁提携弁護士、つまり依頼してはいけない弁護士の見分け方の手がかりをお話ししてみたい。なお、そもそも非弁提携弁護士は非常に少ないこと、また、以下のケースに当てはまれば非弁提携弁護士だと断定できるわけではないことを予め申し上げておく。
紹介料を要求されるケース
例えば、広告業者などから、特定の事件について弁護士を紹介したことに対する対価を要求される場合。これはその業者と弁護士とが非弁提携している可能性がある。事件処理する弁護士を有料で紹介する弁護士紹介屋は弁護士法に違反する可能性が高い。最近は、ネット広告に化体して、違法な紹介屋・事件屋がネット広告業者として非弁提携していることもあるので要注意だ。
また、弁護士諸君は、広告出稿の営業電話などがあっても、それが常に普通の広告業者だと思って安心せず、紹介料の支払いや報酬連動の歩合広告費を支払うなどして非弁提携に陥らないよう、広告業者からの不当な勧誘にはくれぐれも注意すべきだ。
通販サイトのような営業色丸出しの広告サイトが沢山あるケース
ある類型の事件についてお任せくださいと言うことで、通販サイトのように、ひたすら同じ言葉の繰り返しで営業色満載の弁護士広告サイト。しかも、似たような広告サイトが相互に関係のない他の弁護士についても沢山あるような場合。これは背後で非弁である事件屋が弁護士の看板を使って営業をしている可能性がある。
事件屋に操られているわけではなく、広告は単なるテンプレートを使っただけだという弁護士もいるかもしれないが、いずれにしても通販サイトさながらの営業丸出しの弁護士広告は、弁護士ホームページの姿としてあまり感心しない。非弁提携はしておらず、通販営業広告のテンプレートを使っていただけであったにしても、そういう弁護士だということを前提に考えてみる必要があろう。
ともかく、おかしなネット広告経由で非弁提携弁護士に当たってしまったケースは多いように思われるので、ネット広告の吟味には注意を払いたい。
非弁行為で懲戒されているケースの扱い
弁護士の懲戒情報は、ネットを検索すると出てくる。ネットで検索できる懲戒情報の多くは公式なものではないので内容には要注意であり、検索をお勧めするわけではない。しかし私がお勧めしようとしまいと、いまどきGoogle先生に何ごとも聞いてしまう時代だから、検索した結果の懲戒情報の吟味について述べてみよう。
まず、過去に懲戒されているから現に悪い弁護士と言うことはできない。しかし、繰り返し非弁提携事案で懲戒されているとか、そういう情報は、各自弁護士選びをする中での一判断要素とされてしまってやむをえないだろう。特に業務停止以上の懲戒処分は非常に重く、そう簡単になされるものではない。
なお、擁護するわけではないが、懲戒処分として一番軽い戒告事案の中には、果たして懲戒相当であったのかどうか疑問がありうるケースもごく僅かながらに含まれており、一度でも懲戒された弁護士が全部ダメとは限らない。一応、この点だけ付言しておく。
弁護士が挨拶程度しか出てこないケース
無料法律相談に行ったところ、弁護士は挨拶程度しか登場せず、あとは事務スタッフが全部相談を受けたとか、無料相談電話をかけたら弁護士ではない者が相談を聞いて具体的な回答をしたとか、このように弁護士自身がしっかり相談対応や執務対応しないのは怪しい(ちなみに相談予約や単なる問い合わせの電話をした際に、弁護士自身が出てこないのは当たり前なので念のため)。
法律事務所の内部分担として、ある程度の形式事務を弁護士が事務スタッフに個別的に指示しつつ任せることは問題ないが、法律相談や業務の実質判断を弁護士以外がやってしまってはいけない。特に、最初の法律相談で弁護士が殆ど登場しない・登場しても喋っているのは事務スタッフばかりというのはダメだ。論外と言えよう。
年齢では判断できない
年寄り弁護士が、次第に事件が少なくなってきたのに乗じて、事件屋や紹介屋から事件を紹介するとして取り込まれて、看板を乗っ取られるケースは伝統的に存していた。しかし、昨今、もともと依頼が乏しい若い弁護士が、弁護士法や弁護士倫理に習熟していないのに乗じて、顧客を紹介するとのことで事件屋や紹介屋に体よく取り込まれてしまって、若くしてダークサイドに陥るケースが登場している。そして懲戒どころか逮捕されて有罪になっている。
若いから大丈夫、年配だから大丈夫と、年齢での判断はできないのが非弁提携だ。若くても壮年でも年寄りでも安心できない。弁護士諸君には、弁護士法及び弁護士職務基本規程の研鑽と習熟に努められたい。
一番のポイント:複数の弁護士との実面談
結局のところ、1人の弁護士だけを見ていても、それが問題あるかどうかは、弁護士と接した経験が乏しい一般市民には判断しにくいだろう。
そこで、弁護士に何かを依頼したいのであれば、依頼前に、複数の弁護士に実際に相談してみることだろう。その場合も、LINEだとかそんな簡易なやりとりだけで依頼するのではなく、実際にその法律事務所を訪問して事務所の雰囲気を観察し、実際に対面で弁護士と会ってしっかりと言葉を交わして弁護士の様子をこの目で見て、そうして、複数の弁護士とも比較検討して、自分自身で納得できそうな弁護士を選ぶべきだ。弁護士と接した経験が乏しくとも、あれ?なんだかちょっと違う感じがする、少しおかしいぞ・・・という人間の直感は、意外と当たるものだ。
広告やネット情報など匿名・非面前の情報だけで判断・依頼しないこと、これが非弁提携弁護士を選んでしまわないための、一番大切なポイントだろう。