弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

弁護士の選び方(21)・・・弁護士の「交渉」にどこまで期待できるのか?(対弁護士)

交渉に期待する依頼者が多い

 トラブルが生じた際、弁護士に相手方との交渉を依頼したいというケース。いわゆる示談交渉だが、よくある弁護士業務だ。この場合、弁護士に交渉を依頼すれば、相手を論破して打ち負かしてくれるような期待を抱きがちだが、この期待を抱くのはちょっと待ってほしい。

 そこで今回と次回の2回に分けて、弁護士の交渉にどこまで期待できるかを語ってみよう。今回は、【対弁護士との交渉】についてだ。

相手方に弁護士が就いている交渉で論破は期待薄

 トラブルの相手方に弁護士が就いている場合。この場合、自分が依頼した弁護士に相手方弁護士を論破してもらおうと考えているならば、それは期待過剰だ。

 というのも、弁護士同士で議論した結果、相手方弁護士が「分かりました、私の負けです」とすごすご引き下がったとしたら、相手の依頼者本人はどう思うだろうか。うちの弁護士は何やってるんだ!ということで、その弁護士をクビにするだけではないだろうか。自分が依頼した弁護士が、相手方弁護士と議論してすごすご負けて帰ってきたと想像してもらえば、わかるだろう。ありえない話だ。

 したがって、仮に自分の主張が相当正しそうで、相手方の主張に分が悪いところが大きいとしても、相手方弁護士が、対立する弁護士と議論して降参する事態はまずない。こちらからすれば詭弁と思われる反論をしてくることは必至だ。それこそ相手方が相手方弁護士に期待していることだからだ。

 もちろん、相手方弁護士が、例えば刑事事件の犯人(加害者)からの依頼で、こちらは被害者という立場にある場合、加害者側の弁護士が、こちらに恐縮してこちらの主張に沿った対応をすることはあるだろう。しかしそれは、もともと加害者本人による依頼の趣旨が、被害者に謝って赦してもらいたいというところにあって、決して被害者と議論して闘ってくれというわけではないからだ。被害者側の意向を尊重して交渉したとしても、加害者側の弁護士として決して負けて帰ったとは思われない。

 このように、犯罪の加害者と被害者のように立場的に優劣関係のある当事者間での交渉は別として、もともと等しく対立している当事者間での交渉(ほとんどのトラブルはこのような対立構造だろう)において、自分の弁護士が相手方弁護士を論破して、示談交渉で完全勝利する結論は多く経験されるところではない。

弁護士の腕の見せ所は裁判官の説得

 もともと、弁護士は交渉術のプロではなく、法律・裁判のプロであるから、紛争の相手方と議論して論破する説得術を身につけているわけではない。

 このことを理解するためには、「議論」と「裁判」の違いを認識して頂く必要がある。

 「議論」は、相手とこちらと一対一で行う舌戦である。この舌戦にルールもなければどちらが勝ち負けしたかのジャッジもないので、結果が合理的であろうと不合理であろうと、お互いが納得したところで議論は終わるし、納得しなければ物別れに終わって決裂するまでのことだ。この舌戦は往々にして口が達者なものが勝つ。

 一方「裁判」は、相手とこちらで行う舌戦ではない。相手とこちらがそれぞれ、【裁判官に対して】主張立証を繰り返し、【裁判官を説得】する作業だ。裁判官に対するプレゼンテーションないしコンペと喩えてもよい。したがって、説得するのは相手方ではなく裁判官だ。そして、裁判官を説得できた方が裁判に勝つ。この説得は、法令というルールに基づき、客観的で合理的な証拠によって行われ、最後にはどちらが勝ちか負けかを裁判官がジャッジする。したがって、裁判は必ず結論が出る。そして口が達者だから勝つのではなく、客観的な証拠を積み上げて法的に正当な主張をした側が勝つ。

 このように、議論において説得するのは相手方そのものだが、裁判において説得するのは裁判官という大きな違いがある。そして、相手方は利害当事者であるから容易に説得されることはないが、裁判官は何ら利害のない第三者であるから合理的な説得に応じてくれるわけだ。

 我々弁護士は、相手方を説得する交渉マジックを会得しているわけではなく、裁判官に対する合理的な説得方法を会得しているプロなので、弁護士の腕の見せ所は、相手方との交渉ではなく裁判にこそあるということを先ず理解していただきたい。

 だから、弁護士の交渉に対する過剰な期待は禁物というわけだ。

されど、弁護士による示談交渉は期待できる

 しかし、である。

 弁護士は単なる裁判屋ではない。一般の人よりも法的な交渉であれば圧倒的に上手いので、紛争に際して示談交渉から弁護士を依頼するのは正解だ。

 いや、弁護士の腕の見せ所は裁判にこそあって、一般の交渉には期待するなと説明したばかりではないかとお叱りを受けそうだが、裁判のプロだからこそ、先手を打った交渉も上手くできる可能性があるということだ。

 例えば、裁判の勝ち負け。これは、適用法令(裁判例を含む)や手持ち証拠によってある程度の予測はつく。裁判は、口先が上手ければ勝てるのではなく、客観的証拠を合理的に積み重ねて、適切な法令に適用解釈ができたものが勝つ。この裁判の勝ち負けは、将来予測であるから確たることは言えなくとも、ある程度の見通しは、経験のある弁護士なら判断できるだろう(※裁判の勝ち負け見通しについては、こちらのブログをご参照ください)。

 そうすると、弁護士同士の交渉の場合、交渉決裂して裁判になった場合にどうなるか(自分が負けそうかどうか)をある程度考えながら交渉をしているはずであり、将来裁判になった場合に不利と思われる側は、交渉の結果、論破されました・負けましたと白旗を揚げて降参しなくとも、しぶしぶ譲歩してくるという対応はありうるところだ。完全勝利とはならなくても、ある程度相手が譲歩して納得できる示談交渉解決に至ることはよくある。これは、裁判のプロ同士による交渉ならではの順当な交渉結果だ。

 このように、弁護士同士での交渉は、裁判での将来予測を大きな拠り所として行われることが多いため、実は裁判までやらなくても、交渉で順当に解決できる可能性がある。裁判を回避しながら裁判に準じた結論が出るとすれば、時間も経費も節約したコスパの良い解決になろう。まさに、これは一般の人同士の交渉では無理な交渉方法であり、裁判のプロ同士交渉したからこそである。

なお、示談交渉解決だけにこだわらない方がいい

 とはいえ、両当事者がそれぞれ弁護士を依頼しなくてはならないほどこじれてしまった争いを、弁護士が入ったからといって簡単に交渉解決できるケースは多くない。

 だから、弁護士による交渉解決は、訴訟前に一度試みてみる価値はあるが、交渉解決にこだわらず、議論平行線になるようであれば、次のステップである訴訟に進めることを視野に入れて弁護士を依頼するのが賢明だ。

 私の場合、示談交渉期間は交渉開始からだいたい3ヶ月程度を目途にして、引き続き示談交渉を延長するか、それともこれ以上交渉しても平行線になるばかりだから次のステップ(訴訟・調停など法的手続)に進めるかを依頼者と一緒に考えることにしている。弁護士を依頼する大きな意味は、交渉が決裂した場合にそこで終わらず、法的解決に進めることができる能力にあるので、弁護士を依頼しておきながら、いつまでも先の見えない交渉解決に期待を続けるのは得策ではない。

 

 次回のブログ「弁護士の選び方(22)・・・弁護士の「交渉」にどこまで期待できるのか?(対一般人)」では、引き続き、相手方に弁護士が就いていない場合・こちら側に弁護士を就けない場合の示談交渉について語ってみたい。

 

 

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