弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

弁護士の選び方(17)・・・先生、勝てますか?という質問・その2

前回の復習

前回の「弁護士の選び方(16)」では、なんでもかんでも勝てる勝てる安請け合いする弁護士はちょっと怪しいかも、という話をした。今回は、その次となるお話をしよう。

それは、「先生、勝てますか?」という質問の「ほんとうの真意」についてだ。

勝てばいいわけではない

例えば裁判を依頼する場合。

依頼者的には、裁判に勝てるかどうかが気になるだろう。このため、最初に「先生、勝てますか?」という質問をされることが多い。ここで、勝てるかどうかは、ある程度の見通しとして勝ちやすいとか難しいとかは言えても、はっきり勝ち負けは言えないし、言えたとしてもその時点までの手持ちの証拠と想定される主張に沿った感覚的な判断に過ぎないので不確定なものだ。むしろ、最初からはっきり勝てる勝てるという弁護士が怪しい。そんな話は前回した。

さて、じゃあ、ある程度の見通しとして勝てそうだという場合、勝てる見込みはあると思いますよと言うと、それを聞いて安心してすぐ依頼しようとされる方がいる。でも、それは早計だ。なぜなら、裁判は勝てば終わるものではないのだ。勝てば権利が実現できると思ったら、そう簡単ではないことが多い。というのも、次に述べるような裁判の仕組みがあるからだ。

勝訴判決のあとにあるもの

例えば100万円の貸金の請求訴訟を依頼した場合。

首尾よく「被告は原告に対して金100万円を支払え」との勝訴判決をもらったとしよう。原告である依頼者的には、これで万歳三唱したいところだが、それは未だ早い。なぜなら、勝訴判決は絵に描いた餅にすぎず、実際に勝訴判決が100万円のキャッシュに引き換えられるわけではないからだ。裁判に勝っただけでは、100万円は天から落ちてこない。

そうすると、勝訴判決のあとになにをすべきかというと、勝訴判決を受けたので払ってくださいと被告に請求しなくてはならない。え?勝ったのにそんなことまでしなくてはいけないのですか?と思われるかもしれないが、実際、そうだ。勝訴判決とは、あくまでも、100万円を請求する権利があることを国が認めてくれたというだけで、それ以上でもそれ以下でもない。勝訴判決を得たら、裁判所が依頼者(原告)に代わって自動的に取り立ててくれるわけではないのだ。

なので、勝訴判決を受けましたと言うことで、相手方(被告)に対して、100万円をどこそこに振り込んでくださいと指示する必要がある。

勝訴判決に従わずに払ってこないことはよくある

ところが、勝訴判決を受けて100万円を振り込んでくださいと指示されても支払ってこない被告がいる。払わない理由として、払いたくても貧乏で払えないということだったり、払う金はあるが裁判に負けて忌々しいので払いたくないということだったりする。このように、勝訴判決に従わずにお金の支払をしない被告は、何か罪になるのかというと、罪になるわけではない。勝訴判決に従わないことが犯罪になるわけではないのだ。

だから、勝訴判決を受けて、その上で被告にお金の請求をしても、支払ってこない事態がありうる。珍しい事態ではなく、よくあるといっていい事態だ。もちろん、ちゃんと払ってくる相手も多いが、払ってこない相手も珍しくはない。

次に行うのは強制執行

このように、勝訴判決を受けても相手がお金の支払いをしてこなかった場合、じゃあどうしたらいいのかというと、次に行うのは『強制執行』だ。ここがきっと一般の人にはわかりにくい。

強制執行とは、勝訴判決に基づいて、相手が保有している価値ある財産を差し押さえて、お金に換えて回収する手続だ(※必ずしもこのような手続には限られないが、お金の回収のための強制執行のイメージはこんなところになる)。

この強制執行をする場合に特徴的なのは、(1)勝訴判決を保有している者が改めて裁判所に申立する必要があること、(2)相手の価値ある財産を特定して申し立てなくてはいけないことだ。

勝訴判決をもらって、そのまま放置していれば自動的に強制執行手続に進むのではなく、改めて勝訴判決を裁判所に提出して、強制執行という法的続きを裁判所に申し立てる必要がある。裁判に勝ったのに、もう一つその先に裁判があるというイメージだ。もっとも強制執行は、形式的な要件が揃っていれば発令されるのが原則だから、最初の裁判のように法廷で数期日にわたって主張立証を繰り返すものではなく、書面審理で発令される。そういう意味では、通常はそんなに難しい裁判手続ではない。

しかし、それよりも面倒なのは、相手の価値ある財産を特定して申し立てる必要がある点だ。具体的には、預金に対する強制執行をしたければ、相手が保有する預金の銀行名・支店名まで特定する必要があるし、給与に対する強制執行をしたければ、相手の勤務先がわからなければならない。不動産であれば、住宅ローンなどでオーバーローン(※不動産の価値よりもローン残の方が多い状態)になっていない相手方所有物件を発見する必要があるし、売掛金であれば、売掛先情報がわからなくてはならない。いずれにせよ、相手の資産に関わることなので、こちらでは簡単にわからない情報ばかりだ。

相手の資産情報がわからないとか無資産であれば、結局回収不可能となる

そうすると、相手の資産情報がわからないと強制執行はできないことになる。或いは、調べてみたけれども、どうやら相手には金目の資産がないとなれば、これもやはり強制執行はできない。

金目の資産がなければ、身ぐるみ剥いでやろうじゃないか、この際、嫌がらせ上等だと思っても、強制執行は相手の資産をむしり取る手続ではない。価値ある資産を競売などで換価して金に換えて、その金の中から配当の形で判決で認容された金額を受け取る手続だから、金目の資産がない以上、強制執行はできない。

このように、相手の資産情報がわからないとか相手が無資産である場合には、強制執行が不可能だから、せっかく裁判に勝っても、勝訴判決は本当に絵に描いた餅になる。そこでキャッシュの回収は手詰まりになるわけだ。

裁判前に相手の資産調査がとても重要

だから、裁判に勝ったあとになって、裁判に勝っても強制執行できなければキャッシュの回収はできないことを初めて知ったのでは、依頼者からすれば納得がいかないだろう。

高い弁護士費用を払って裁判を始めて、首尾よく裁判に勝ってまた高い弁護士報酬を払って、さていよいよお金が回収できるぞと期待を膨らませていたら、相手に資産がありませんねということで、裁判に勝ったものの、この件は当分お金の回収はできません、と弁護士から言われたら、「そんな話、聞いてねーよ!」という気持ちになるだろう。

最初にしっかりこの裁判の仕組みを説明する弁護士を選ぶべき

このように、依頼者が「先生、勝てますか?」と最初に質問してきたとき、この真意は、裁判に勝てることだけを質問しているのではなく、回収できるかどうか、つまり「先生、取れますか?」ということを質問されているのだということを、弁護士としては必ず意識すべきだ

もちろん、こんなことは殆どの弁護士が意識しているはずで、むしろ司法修習生に実務研修などで指導するレベルの基本中の基本の事柄だ。それでも説明不足や説明下手な弁護士は、依頼を受ける当初に、依頼者にこの裁判の仕組みをよく理解させていない場合がありうる。或いは、裁判の依頼を受けて勝ちさえすればよくて、実際に回収できるかどうかなんて先の話は知ったこっちゃないという残念な弁護士もいるかもしれない。

お金の回収を依頼された場合、裁判に勝っただけでは意味がなく、相手から回収できるかどうか、強制執行できる資産を相手が持っているかどうか、そういう将来的な観点を持っている弁護士を選ぶべきだ。勝っても回収できないとわかっていたなら、わざわざ弁護士費用をかけてまで依頼しなかったのにという人もいるだろう。

だから、私は、勝てる見込みのある裁判でも、実際に相手からの回収ができない可能性があれば、依頼前にこの点をよくお話することにしている。そして回収できない可能性があるのに、弁護士費用をかけて裁判をやりますかと伝える。これは私に限らず多くの弁護士がそのようにしているはずだ。もっとも、1回勝訴判決を取っておけば、原則10年間は有効だから(※無期限に有効ではないことに注意)、今すぐ回収できなくても、将来に備えて勝訴判決を取っておくという意味は大いにある。

そこで、弁護士の選び方としては、貸金でも売掛金でも損害賠償金でも、お金の請求をしたいという依頼の場合、勝てる見込みがあると言うことで、相手方の資力の検討もせずに、じゃあ依頼してください、勝てそうだからさっさと提訴しましょうというイケイケどんどんな弁護士は、ちょっと待った方がいいかもしれない。もちろん、相手が大企業とか資産家で資力に不安がないということであれば、資力の詳細な検討は不要ということもあろう。要は相手次第だ。

以上、勝てるかどうかだけでなく、回収できるかどうかという将来の観点をおろそかにする弁護士は、依頼者のためにならないと私は思っている。

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