弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 20年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

弁護士業務と大量生産

本来、弁護士業務は大量生産できない

 なぜなら、個人にしろ会社にしろ発生した法律案件は個別に独特な問題であって画一的なものではないからだ。だから、その独特な事情に応じて、いちいち弁護士が頭をひねって対策を練る必要があるからだ。だから大量生産できない。

 これが訴訟ともなれば、よりいっそうこのことは明らかになる。

 地方裁判所で行われる多くの裁判に代理人として出られるのは原則として弁護士だけだから、弁護士が予め準備書面を作成し、実際に期日に出頭して弁論をすることになる。だから期日が入ってしまったら、その日時前後に別の仕事はできない。もっぱらその事件に専従せざるをえない。地方ともなれば、半日とか終日、その事件一つだけということも珍しくない。

 このように弁護士業務は、実際に弁護士が、頭をひねったり、書面を作成したり、交渉をしたり、訴訟期日に出頭したり、こういう職人仕事によって遂行されるのが本則であり、大量生産できない仕事なのだ。だから、いちどに引き受けられる事件数も、報酬単価を安くするにも限界がある。

ところが大量生産する事務所がある

 弁護士業務の中には大量生産できそうなジャンルがいくつか存在している。

 難しい話や”べき論”は抜きにして、大量生産できそうなジャンルがあるのは間違いない。その代表格が「借金問題」(債務整理・自己破産)の分野だ。返せなかったり返しにくくなった借金の整理を債務者の代理人として手助けする弁護士業務だ。具体的には、弁護士が債権者と交渉をして、元金総額を下げさせたり、今までよりも負担の少ない分割返済ができるようにしたり、果ては自己破産の申立をしたり、こういう業務だ。借金問題処理自体は、私自身、古くから取り扱い業務として提供していた分野のひとつであり、それを取り扱うこと自体がどうということはない。

 他にも、借金問題ほどではないにしろ、「交通事故」「残業代請求」あたりが大量生産しやすそうな分野だ。

借金問題は大量生産しやすい

 しかし借金問題処理の実態は、弁護士が金融業者の所に行って直談判したり、直接電話をして延々話し込んだり、書面を一から書き起こしたり、あれこれ調査をしたり、証拠を揃えて工夫してみたり、訴訟か和解かというぎりぎりの交渉をしてみたり、こういう作業はひと昔前ならいざしらず、もはや今となっては殆どする必要がない。

 事務スタッフが予め定められたマニュアルに従って相談者から事情聴取して方針を決め、事務スタッフがひな形になっている文書を金融業者に送り、事務スタッフが債権者から届いた定型的な計算書類を吟味し、事務スタッフが弁護士に代わって債権者と電話で話をして定型的な和解条件を決め、事務スタッフが和解書を送付する。こんな感じで、弁護士抜きのルーチンワークとして最初から最後まで仕事を完結させることができる業務分野になっている。弁護士抜きで仕事ができるから、事務スタッフを大量雇用すれば、大量生産できる。これが借金問題だ。

 ところがところがである。

事務スタッフだけで大量生産するのはルール違反

 弁護士は、弁護士資格のない事務スタッフに事件を丸投げしてはいけない決まりになっている。

 決まりという以前に、クライアントは、弁護士を頼ってきているのであって、事務スタッフを頼ってきているわけではない。普通、病人は医師を頼ってきているのであって、看護師だけを頼ってきているわけではないのと同じだ。

 もちろん、お茶くみとお使いとコピーのためだけに事務スタッフを雇用しているわけではないから、弁護士の指示の下に弁護士業務を手伝わせるのは全く問題ない。依頼者から弁護士と事務スタッフの両方を頼られるのは素晴らしいことだ。私の事務所でも、事務スタッフにはだいぶ活躍してもらっている場面も多い。実際、どんな事務所でも、借金問題では事務スタッフの事務作業量は弁護士より多いのが普通だ。

 しかし最初から最後まで全部事務スタッフがやってしまうのは、明らかにおかしいだろう。最初に弁護士が挨拶程度に出てきたとしても、それでは弁護士がみずから業務をやっているとは言えない。
 簡単そうに見える借金問題の業務であったとしても、少なくとも、一番肝心な最初の相談では、最低30分から1時間は弁護士が自ら事情を聞いて方針を立案して説明する、ここを欠くのは致命的にダメだ。初回の法律相談で、専ら事務スタッフがマニュアルにしたがって相談を受けて回答に終始するなど、とんでもない。
 その後も各社から履歴が取りそろって具体的な債務整理方針を依頼者と検討する場面だとか、過払い金が発生して訴訟で回収をしようとする場面だとか、弁護士とクライアントで直接打ち合わせ検討すべき場面は多い。

 このように、法律事務は、借金問題ですら事務スタッフだけで処理を完結することはできず、弁護士との協働作業にならざるをえない。結局、大量生産できそうにみえて実は難しい。これが法律事務の本当の姿なのだ。

問題の原因が違うかもしれないから大量生産できない

 そして、借金問題といえども、定型的マニュアルにしたがって常に大量処理できるとは限らない。例えば、個人の借金問題だと思ったら会社の倒産事件だったということが時々あるからだ。

 中小企業が資金繰りに窮した際、社長個人がサラ金からお金を借りて会社に貸し込むということはありがちだ。その社長個人が、サラ金の借金を返済できないということで法律事務所を相談に訪れる。マニュアルどおりに処理することしか知らない事務スタッフがこの相談を聴いたとしたら、社長個人のサラ金の債務整理だけを行うことに終始するだろう。

 しかしそれでは解決にはならない。問題の根が会社の資金繰りならば、社長個人の借金問題を解決しても根本治療にはならないから、会社の借金整理こそ必要な事件処理ということになる。そうすると同じ借金問題でも、会社の倒産事件は個人の借金処理よりも遙かに多種多様の問題を処理する必要があるから、マニュアルにしたがった事務員作業では到底対応不可能だ。

離婚問題かと思ったら会社倒産問題だったりする

  さらに言えば、「○○問題」という固定した問題類型が相談の当初からはっきり定まっているとも限らない。

 例えば、中小企業の社長が深刻な顔をして「実は妻と離婚をしたい」と相談に訪れる。しきりに「離婚すれば妻に借金の取り立ては行かなくなるんですよね?」と尋ねられる。これがマニュアルにしたがった事務スタッフだったら「離婚問題」として処理してしまいそうだが、経験のある弁護士であれば十中八九、ああ、これはもしかしたら本当に離婚したいのではなくて、離婚したら借金の迷惑が家族にかからなくなると勘違いをしているのだなと気づく。つまり、真の問題は離婚問題ではなく、借金問題こそ必要な事件処理になるのだ。

 弁護士は、事務スタッフと違ってマニュアルだけで動いているわけではないから、自分の経験と法的知識に照らして相談者の真意を窺いながら、当意即妙に対処できる。
 このように大量生産できそうな法律事務であっても、常に弁護士が関わっていないと、必ずしもベストな結果は出すことができない。これがたいがいの法律事務だ。
 さて、あなたが依頼している「先生」は、この辺、ちゃんとできてますか?

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