弁護士 小川義龍 の言いたい放題

 30年選手の弁護士小川義龍(東京弁護士会所属)が、歯に衣着せず話します。

弁護士の選び方(4)・・・経験年数

 前回は、弁護士を選ぶ際に、弁護士の学歴はあまり気にする必要がないという話をした。今回は、弁護士の経験年数についてお話ししてみよう。

やっぱり気になる経験年数

  冒頭申し上げたいことは、経験年数のある弁護士が優れていて、経験年数のない弁護士がダメだと伝えるつもりはない。この点、くれぐれも誤解ないようにしていただきたい。

 しかしそれでも、やっぱり、弁護士選びに際して、弁護士の経験年数が気になる人はいるだろう。弁護士は職人だから、経験がものをいうことは否定できない。「経験年数」ではなく、「経験値」なんだけれども、その経験値の一判断要素として経験年数は大きい。

新人弁護士の経験値

 ところが、新人弁護士に近いほど、ウェブなどで自分の経験年数(登録年度・修習期など)を明示していないことがある。おそらく依頼者に、新人だからと不安を持たれたくないのだろう。

 あくまでも個人的な感覚だが(そしておおかたの弁護士の感覚も同様ではないかと想像するが)、登録1年未満の弁護士は、やはり基本経験値(弁護士として通有の職人勘や基本的技術)は低いだろうと思う。司法試験に合格して、司法修習を終えたら、弁護士として一人前かというと全くそうではない。ようやくそこがスタートラインで、先輩弁護士とOJTしながら経験値を積んでゆく。そういう意味では事件類型ごとの経験値を云々する以前に、基本経験値が低そうだ。

 基本経験値といえば、登録1年目だけでなく、登録2〜3年目くらいまでは、基本経験値の底上げ修行期間中だろう。訴訟事件だと、それなりに争点があって研鑽できる事案は、提訴してから第一審判決まで、1年以上かかることが多いから、やっぱり2〜3年しないと訴訟事件を何度も繰り返し経験したとはいえないだろう。

 しかし一方で、経験値は乏しくとも、新人ならではの活力もある。

 私も新人だった20年前に、先輩弁護士は無理だと言った、刑事否認事件における勾留に対する準抗告(そして不起訴)を獲得したことがある。知らない人には、これだけ聞いてもなんのこっちゃという感じだろうから簡単に言うと、ベテラン弁護士の多くが行いそうもない刑事弁護活動をして見事結果を出したわけだ。新人だったからこそ、司法研修所で習いたての教科書どおりの知識と、がむしゃら感だけで行った刑事弁護の勝利だったと思う。

 だから、むしろ謙虚に「私は登録したての新人なんです」「経験は乏しいですが、やる気は人一倍なのでどうぞお任せ下さい」と正直に言ってくれる新人弁護士は、信頼に足るのではないかと思う。新人弁護士といっても、経験値不足なだけであり、弁護士としてのセンスはあるはずだ。また、新人弁護士が所属する事務所に経験値豊富な先輩弁護士がいれば、OJTでも問題ないだろう。

 商売っ気たっぷりのウェブで、ことさら経験値を高く見せかけ、新人であることを隠そうとするよりも、新人は新人であることを売りにすることこそ誠実じゃないかと思う。

裁判官や検察官を参考にすると・・・

 ところで、ちょっと語弊のある書き方だけれども、裁判官や検察官は、一定の年限を超えてベテランになる。

 裁判官の場合は、任官して10年までは「判事補」と称するが、10年以上すると「判事」となって「補」が取れる。「補」というのは、ベテランに付ける言葉ではなかろう。

 また検察官の場合は、任官して8年までは「二級検察官」だが、8年以上になると「一級検察官」になれる。「二級」というのは、やっぱりベテランに付ける言葉ではなかろう。

 こんな風に、同じ法曹でも、裁判官は10年、検察官は8年が、ベテランへの第一歩の分水嶺になっているように見受けられる。弁護士の場合には、弁護士補だとか二級弁護士といった資格の区別はないけれども、裁判官や検察官の昇進年数を参考にすると、弁護士の場合も、経験年数8年〜10年くらいのところでベテランへの道を歩み出したということもできるのではないだろうか。

経験年数があればいいというものではない

 一方で、弁護士としての経験年数があればいいというものではない。

 重要なのは「経験年数」ではなく「経験値」だ。弁護士は、取り扱った事件に応じて個別に経験値が高まってゆく。例えば、知的財産権事件を全く扱わずに10年経過した弁護士よりも、知的財産権事件を十分取り扱って研鑽した1年目の弁護士の方が優れているかもしれない。取り扱った事件類型に対する経験年数こそが重要だ。

 さらに視点を変えれば、いまどきの新人弁護士がPCやネットワークを駆使するのは常識だと思うが、何十年選手の古参弁護士だと、ネットワークなどさっぱりわからない、メールは使わないファックスか手紙で、という人もいそうだ。こうなると、むしろ新人弁護士の方が優れている。経験年数だけ見ていると、弁護士選びには失敗するかもしれない。

一基準として使う分には参考になる経験年数

 とはいえ、弁護士経験年数以上に、事件類型ごとの経験年数を知るのは難しい(難しいながらも、次回ブログで、この予想方法について語ってみたい)。当の弁護士本人からして、事件類型ごとの経験年数などはっきり覚えていないだろう。

 そうするとやはり、弁護士になってからの経験年数を手がかりとすることはやむをえまい。

弁護士の経験年数を調べるには?

 では、弁護士の経験年数はどう調べたらいいだろうか。

 まず、調べたい弁護士の名前から弁護士登録番号を調べるのが第一歩だ。

 弁護士登録番号は、日弁連の弁護士情報検索ページから検索することができる。調べたい弁護士の氏名を入力すると、検索結果欄の一番左に「登録番号」が出てくる。この数字が弁護士登録番号だ。弁護士登録番号は、登録年月日順に機械的に割り当てられてゆくので、この登録番号が小さければ経験年数が長く、登録番号が大きければ経験年数が短い(例外があるので後述する)。

 登録番号と弁護士経験年数の対応は、次の表のとおりだ。この表は、鶴間洋平弁護士のサイトに掲載されているデータを利用させて頂いた。弁護士経験年数(登録年数)は、本稿をアップした平成26年6月時点における年数なので留意されたい。

弁護士経験年数 早見表(平成26年6月現在)

 弁護士経験年数 修習期 登録番号

 登録48年〜57年 10期代 7168~

 登録38年〜47年 20期代 10788~

 登録28年〜37年 30期代 16028~

 登録18年〜27年 40期代 20484~ ※私の登録番号23559はここ。

 登録17年    50期  25761~

 登録16年    51期  26427~

 登録15年    52期  27091~

 登録14年    53期  27748~

 登録13年    54期  28497~

 登録12年    55期  29408~

 登録11年    56期  30348~

 登録10年    57期  31381~

 登録9年    58期  32581~

 登録8年    59期  33724~

 登録7年    60期  35165~ ※この期から法科大学院卒業組が登場する。

 登録6年    61期  37429~

 登録5年    62期  39704~

 登録4年    63期  41985~

 登録3年    64期  44085~

 登録2年    65期  46237~ 

 登録1年未満  66期  48314~ ※この期から法科大学院卒業組が殆どに。

弁護士登録番号と経験年数の例外

 ごく僅かであるが、弁護士登録番号と弁護士としての経験年数が上記のとおり対応しない弁護士がいる。

 どうしてかというと、弁護士登録をいったん抹消して(弁護士会を退会して)、その後再び弁護士登録をしたケースがあるからだ。例えば裁判官に転身するなど、弁護士の資格を持ったままではできない職に就く場合には弁護士登録をいったん抹消する必要がある。そして、その後再び弁護士に戻った場合、以前は、かつての登録番号ではなく、改めて新しい登録番号が割り当てられてしまっていた。だから、登録番号だけで見ると新人と同じになっていた。なお、現在は、弁護士会をいったん退会した場合でも以前の登録番号を復活できる措置が設けられているようだが、そのような措置を取らなかった場合に、登録番号は新しくなってしまう。

 なお、裁判官などに転身して登録番号が新しくなってしまったというのは経験値プラス方向の要素だが、逆に、懲戒を受けて弁護士会を退会し、ごく少数だが、その後、長年月を経て再入会が認められたような弁護士の場合、登録番号が新しいのは経験値マイナス要素だろう。こういうケースもありうる。

ヤメ判・ヤメ検など

 業界内では、元裁判官の弁護士を俗にヤメ判、元検察官の弁護士を俗にヤメ検と言う。判事をヤメた弁護士、検事をヤメた弁護士の略称だ。この言葉、業界内で普通に使われているが、時にはネガティブな意味合いを持つこともあるので、実際にヤメ判やヤメ検の弁護士本人にそう言うと、気分を害される場合もあるので要注意だ。あくまでも当の本人が自称する言葉、或いはそのような総体をまとめて称する言葉として使うのがよさそうだ。

 このヤメ判・ヤメ検の弁護士登録番号は、弁護士登録した時点での番号だから、裁判官や検察官としての経験期間は見えてこない。弁護士としては登録したての新人でも、裁判官時代に主として民事事件を扱ってきたヤメ判弁護士が民事弁護を行う場合とか、ヤメ検弁護士が刑事弁護を行う場合とか、そういうことであれば経験豊富なわけで、新人弁護士と同列には扱えないだろう。

 例えばヤメ判であれば、新日本法規出版株式会社のウェブサービスで氏名から「裁判官検索」すれば、経歴を見ることができる(現役裁判官だけでなく、元裁判官の経歴も検索できるようだ)。この経歴と併せて、弁護士経験年数を通算すべきだろう。

事件類型ごとの弁護士経験値の予測法

 以上、弁護士経験年数は、弁護士を選ぶ際の参考要素にはなるけれども、単に弁護士としての登録年数を見ただけでは、当該事件に対する経験値の深さは測れないと述べた。

 そこで、次回は、この点をもう少し掘り下げて、登録番号から弁護士経験年数が判明した次に、その弁護士の事件類型ごとの経験値を予測する方法について話してみよう。

 (つづく)

バックナンバー

 弁護士の選び方(1)・・・広告(総論)

 弁護士の選び方(2)・・・ホームページ(総論)

 弁護士の選び方(3)・・・学歴

 

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